SDVで「ニッポン出遅れ」論が意味すること:池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/8 ページ)
このところ静かなブームとなりつつあるのが、日本の「SDV出遅れ」論だ。何としてでもニッポン出遅れの材料を探し続けるその熱意には感服至極である。要するに、SDVに出遅れた日本の自動車メーカーが、絶望的な窮地に陥(おちい)ると言わんばかりのことを記事にする媒体が現れて、新たなトレンドになりそうな気配がしている。
クルマにアプリを自由にインストールできるようになる?
ことほど左様に、極めて難問なのだが、放置できる問題ではない。業界全体の流れとしては、少なくとも今の増築の塊のようなソフトウエア群のままで良いとは考えていない。スパゲティ化したソフトウエアを整理して、できる限り汎用化し、可能であればOSのバージョンアップデートで一斉に全部のクルマが新しくできるようになることが望ましい。
概念としては全くその通りなのだが、現実の話になるとこれまで説明してきた通り、そう簡単に一筋縄ではいかない問題なのだ。VWのヘルベルト・ディース元CEOが退任させられた表向きの理由も車載OSの内製化の失敗だった。
さて、実はこの車載OSがどういう方向へ進むのかについての説明で一番分かりやすかったのはトヨタの佐藤恒治社長の説明だ。「スマホはOSがあって、そこに個人個人が勝手にアプリをインストールする。だから機能もインタフェースも人それぞれ違う。長期的にはクルマのOSもそうなっていくと考えている」
つまり車載OSの登場によって、アーキテクチャーが解放され、オープン化されるという世界観である。そこにサードパーティがさまざまなユーザーニーズを先取りしたアプリをリリースし、ユーザーは機能と対価を見ながら自分が使いたいアプリをインストールする。アップルのApp Storeのようなものだ。
なるほど概念としては分かりやすいのだが、現実はそう簡単ではない。スマホ以上にセキュリティが重要だからだ。悪意のあるソフト、つまりマルウエアが仕込まれたとしても、車両制御系への被害拡大は絶対に阻止しなくてはならない。
なので車載OSは概念としてはオープン化を目指すのだが、車両制御系領域とその他の間に絶対的なファイアウォールを置くか、物理的にネットワークでつながないというセキュリティが必要になる。かなりの矛盾を内包している。
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