電撃的な“為替介入”でも「影響は一時的」と考えられる、これだけの理由:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
2022年9月、10月に相次いで、ドル売り・円買い介入が実行された模様だ。円高が進み、その影響に注目が集まるが、一時的なもので終わると考えられる。その訳を解説する。
理想的な為替介入
「理想的な為替介入」とされる事例の一つに、2011年の東日本大震災後の介入がある。この時、日本円は急速に円高となった。これは被災地の復興資金需要や、保険金支払いのための資産の国内回帰が予想されたたため、投機的な円買いが発生していたのだ。この円高が進むと、日本経済に悪影響を及ぼす可能性があったため、G7諸国は共同で為替市場に介入し、円の価値を下げることを決定したのである。
日銀が東日本大震災に対応して金融緩和を強化していた時期のことであり、為替介入も金融政策も共に円安方向で一致していた。筋の通った為替介入であれば、外国の協力も得られるのだ。1998年の円支援や2000年のユーロ支援なども、各国が協調して為替市場に介入した。
経済的な危機や特別な事情がある場合に、為替レートの誤認が大きな社会的コストを生じさせる。これを避けられるための為替介入であれば理想的といえそうだ。
最近の財務省による為替介入はいずれも外国の協力なしの「単独介入」という見方が強く、金融政策との逆行から見ても筋が通っていない、理想的な為替介入とは程遠いと言って差し支えないだろう。
神田財務官の“神格化”?
そんな意義の乏しい為替介入の現状とは裏腹に、為替介入をリードする財務官がもてはやされ、SNS上で言ってしまえば“神格化”されることもあるのは、非常に興味深い事象だ。いち政策実行者の服装や表情までウォッチして、介入するのか(したのか)否かを推測しようとする一部メディアの報道にも違和感を覚える。
財務官個人を過度に崇拝することで、理性的な政策評価を阻害する可能性が生じかねない。財務官の判断が常に正しいわけではなく、時には誤った判断もありえる。にもかかわらず、彼らが大きく市場を動かしたという事実一点のみで神格化されることで、そのような判断が適切な批判や検証を受けずに採用されるリスクが高まる。
また、公共の政策が一部の個人のカリスマやパフォーマンスに依存することで、その政策の持続可能性や一貫性が損なわれることにも注意すべきだろう。これは、財務官が変われば政策の方向性が大きく変わることもありえるため、長期的な経済計画に対する市場の信頼が揺らぐことにつながる。
結論として、為替介入を行う財務官の神格化は、適切な政策評価と持続可能な経済運営を妨げるリスクがある。政策実行は個人の能力に依存するのではなく、透明で、責任あるプロセスを通じて行われるべきで、介入についても裁量というよりはシステマチックで包括的なアプローチを推進すべきだろう。
「中央銀行には逆らうな」という相場格言がある。現状は、財務省が中央銀行に逆らってしまっている。為替市場のような巨大な市場では、中央銀行の政策の方が結局は強い。筋の通ってない為替介入への影響は、前回と同じように、一時的なもので終わるだろう。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら
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