求人票より低い給与提示はNG? 「やる気はあるがスキルが足りない人」を中途採用したいが……:Q&A 社労士に聞く、現場のギモン
「求人票に記載した給与よりも低い金額を提示するのは違法ですか?」──採用の過程で、やる気はあるがスキルがないという人からエントリーを受けることもある。給与を調整するのは問題なのか? 社労士が解説。
連載:Q&A 社労士に聞く、現場のギモン
働き方に対する現場の疑問を、社労士がQ&A形式で回答します。
Q: 中途採用をしていると「想定していた実務経験やスキルはないが、やる気はありそう」な方からの応募をいただくことがあります。その場合、求人票に記載した給与よりも低い金額を提示してもいいのでしょうか? 最近は「求人詐欺」という言葉をSNSで見かけることもあり、不安です。気を付けるべきポイントがあれば教えていただきたいです。
A: 本件のように、正式採用前あるいは労働契約締結時であれば、求人票の給与よりも低い金額を提示すること自体は基本的に問題がないと考えられます。
そもそも求人は「労働契約の申込みの誘引、つまり応募を誘っているにすぎない」と考えられています。そのため、求人票に記載する労働条件は、あくまでも見込みにすぎず、直ちに労働契約の内容となるとは言えません。
したがって「求人票記載の給与額は、求める人材が保有する実務経験やスキルに対して設定した額のため、実際の応募者がその実務経験やスキルに達していないのであれば、低い給与額に変更した、新しい労働契約内容を提示することは可能」と言えます。
では、想定した実務経験やスキルはないが、やる気はありそうな方からの応募があり、求人票記載の給与より低い金額で採用したい場合はどうするか。面談の際に、求人票記載の金額より低い給与額になることとその理由を丁寧に説明しましょう。そして、その他の労働条件も含めて、採用後の労働契約の内容に対して合意を得てから労働契約の締結をするようにしてください。
このように、会社と応募者の間で求人票記載の労働条件の内容を変更することに合意したと認められない場合には、求人票などに記載した内容通りの条件で労働契約が成立したと解されます。
また、「求人詐欺」という言葉をSNSで見かけることがあり不安と懸念されていますが、先述の通り、求人票に記載する内容はあくまでも見込みの条件にすぎません。求人票記載の労働条件が直ちに採用後の労働条件に適用されるわけではなく、実際の労働条件が異なっていたとしても、直ちに違法認定されることはありません。
しかし、例えば、求職者を集めるために、最初から変更ありきで高い給与額を提示し、採用後は著しく低い給与額で就労させるなどの場合には「虚偽の広告・条件によって労働者を募集した」として違法行為と判断される可能性もありますのでご留意ください。
著者:近藤留美 近藤事務所 特定社会保険労務士
大学卒業後、小売業の会社で販売、接客業に携わる。転職後、結婚を機に退職し、長い間「働く」ことから離れていたが、下の子供の幼稚園入園を機に社会保険労務士の資格を取得し社会復帰を目指す。
平成23年から4年間、千葉と神奈川で労働局雇用均等室(現在の雇用環境均等部)の指導員として勤務し、主にセクハラ、マタハラなどの相談対応業務に従事する。平成27年、社会保険労務士事務所を開業。
現在は、顧問先の労務管理について助言や指導、就業規則等規程の整備、各種関係手続を行っている。
顧問先には、女性の社長や人事労務担当者が多いのも特徴で、育児や家庭、プライベートとの両立を図りながらキャリアアップを目指す同志のような気持ちで、ご相談に乗るよう心がけている。
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