「ソリューション営業」終焉 新たな勝ち手法「インサイト営業」を実践する5つのステップ:後編(3/3 ページ)
日本で正義とされているソリューション営業が終焉迎えています。米国では「インサイト営業(Insight Selling)」が注目を集めています。今回の記事では、これからの時代に勝ち抜くために必要なインサイト営業を実践するための具体的な方法について紹介します。
これからの時代、営業は「チーム戦」に
いかがでしょうか? 「ハードル高すぎ」「そんな簡単じゃないよね」という声が聞こえてきそうですが、これは担当営業1人で実行するものではありません。営業組織としてチームで展開していくことが成功するポイントとなります。
意思決定者のみならず、意思決定者に影響を与えるインフルエンサー、運用部門やユーザー部門などの関連部門の上層部も押さえる必要があります。そのような意味では、担当営業は、営業部長や役員などの上司を巻き込み、過去の経験や知見からの洞察も加え、顧客のステークホルダーを説得していくことが肝要です。同じ提案内容であっても、上層部同士が共感し合える場は、とても重要になります。
ここまでいろいろと解説をしてきましたが、筆者自身も失敗したことがあります。
インサイト営業は、平たく言えば「お客さんが認識している課題も重要ですが、あなたの会社の事業を成功させるには、こちらの課題を解決すべきではないでしょうか?」と上から目線な、マウントを取るような営業スタイルになりかねません。
営業部長だった頃、某大手製造業のITインフラ基盤刷新案件を担当していました。既存システムは大手SIベンダーががっつり押さえていて、ハードウェアをベースとした既存システムの延長上の提案内容が優勢な状況でした。このまま同じようなシステム提案をしたところで勝ち目はないと判断した私は、RFP(提案依頼書)を書くことになっている同社の情シス子会社へアプローチして「ご依頼の内容で提案することもできますが、御社のゴールを達成するには、私どもの提案の方が良いです」と上から目線の提案をしました。
「ピーク時のトラフィックに合わせたサイジングで“使いもしない”大規模投資をするのではなく、利用した分だけ課金されるクラウドをベースにした方が、絶対的に良いです。当社は、ハードウェアでもなく、ソフトウェアでもなく、ドリームウェアを提案します」と意気揚々と最終プレゼンに臨みました。活発な質疑応答が繰り広げられ、良い雰囲気でプレゼンを終え、担当の課長さんからも「良い気付きを与えて頂き、ありがとうございました」と感謝され、気分よく帰社しました。
ところが、1週間後の選定結果の通知は、不採用。「えっ? なんで?」と思いましたが、情シス部長の鶴の一声で、既存ベンダーが採用されたというのです。後日、その部長にアポを申し入れましたが、お会いすることができませんでした。提案した企業で失注後にアポが取れない経験をしたことがなかったので、ショックでした。顧客の課長からの情報では、そのRFPには、その部長が30年間経験してきている製造業としてのシステムに対する思いが詰まっていたにもかかわらず、それを無下にして、正論を振りかざした若造が気に入らないといという趣旨のものでした。
その情シス部長さんの置かれた状況や上司から言われている内容、既存ベンダーとの関係などさまざまあったと思います。その決裁者の部長に一度もお会いすることなく最終プレゼンに臨んでいるという段取りの悪さ、今思うと「それはそうだよな」と、その部長さんが仰ることも、とても理解できますし、申し訳ない思いでいっぱいです。
ここでの学びは、意思決定するのはあくまで人であるということ。いくら斬新で経済的合理性がある提案内容であっても、信頼関係が構築できていない状況で上からマウントを取るような接し方や言動をするのはNGということです。顧客=人として捉え、解像度を上げて、本当の意味で信頼関係を構築するというのがとても重要です。
まとめ
インサイト営業は、単なる営業手法を超え、顧客との関係を根本的に見直し、新しい価値を共創するパラダイムシフトです。
このアプローチを成功させるには、顧客のニーズと課題を的確に把握し、それに応えるための洞察力、柔軟性および創造性が必要です。営業チームがこれらのスキルを身に付け、顧客との信頼関係を深めることができれば、持続可能な成長と相互の成功を実現することができるでしょう。
顧客と一緒に未来を切り開く旅は、挑戦的であると同時に、大きなやりがいと成果をもたらすものです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「ソリューション営業」はもう古い! これからの時代に求められる「インサイト営業」の有効性
日本では長年、ソリューション営業が正義とされ、課題解決型の営業アプローチが求められてきました。一方昨今米国では、市場動向や顧客状況の力学に迅速に適応し、顧客が自覚をもしていない未知のニーズを解き明かす「インサイト営業(Insight Selling)」が新たな営業スタイルとして注目を集めています。日本で正攻法とされていたソリューション営業は限界を迎えているのです。
むやみな「THE MODEL」導入の落とし穴 失敗企業に共通する“犯人”とは
セールスフォース・ジャパンが提唱するTHE MODEL、今や関連ある職種の方なら誰もが耳にしたことがあるだろう。しかし「THE MODELを導入したがうまくいかない」「THE MODELの分業体制で弊害が起こっている」など、最近は批判的な指摘も目立つ。THE MODELそのものが悪いのか、それともむやみに導入することが間違いだったのか、犯人探しをしていきたい。
「ネクスト・THE MODEL」を考える 新時代の営業に求められる3つのアップデート
多くの会社が「THE MODEL」に倣って自社の営業組織を組み替えた。実は、THE MODELの内容は2000年代前半、Salesforceの市場開発時に行われたオペレーションが基となっており、情報が少し古くなっている。今回はTHE MODELを発展させる形で新しい時代のセールスプロセスを考察し、営業におけるデータ活用、営業マネジメントのDXについて紹介していきたい。
2年分のアポをたった半年で獲得、なぜ? TOPPANデジタルのインサイドセールス改革
大和証券、データ活用で成約率2.7倍 「顧客に損をさせない」ための秘策とは?
大和証券では営業活動におけるデータ活用を強化しており、≪成約率が2.7倍≫に成長するなど、売り上げを伸ばしている。しかし、データをもとに「ニーズの高い顧客」を見極め、効率的な商品提案ができるようになった一方で、本当の顧客満足に向き合えているのか、課題に感じていた。そんな中、同社は顧客ロイヤルティを測る「NPS」指標を活用し、≪成約率だけでなく、顧客満足度を意識した営業組織≫に変革を遂げているという。
優秀な営業マンにあえて「売らせない」 オープンハウス流、強い組織の作り方
