むやみな「THE MODEL」導入の落とし穴 失敗企業に共通する“犯人”とは(1/3 ページ)
セールスフォース・ジャパンが提唱するTHE MODEL、今や関連ある職種の方なら誰もが耳にしたことがあるだろう。しかし「THE MODELを導入したがうまくいかない」「THE MODELの分業体制で弊害が起こっている」など、最近は批判的な指摘も目立つ。THE MODELそのものが悪いのか、それともむやみに導入することが間違いだったのか、犯人探しをしていきたい。
THE MODELとはセールスフォース・ジャパンが提唱する営業工程を4つの職域(マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセス)に整理したモデル・理論だ。2019年に発売された『THE MODEL マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス』は10万部突破しており、今や関連ある職種の方なら誰もが耳にしたことがあるだろう。
しかし「THE MODELを導入したがうまくいかない」「THE MODELの分業体制で弊害が起こっている」「THE MODELはウチには合わない」「THE MODELで視座が低い担当が増えた」といったコメントを多く聞くようになり、SNS上でも定期的なTHE MODEL批評のコメントが目立っている。
そこで、THE MODELそのものが悪いのか、それともむやみに導入することが間違いだったのか、犯人探しをしていきたい。
加えて、THE MODELの導入が失敗するとどうなるか、その要因と失敗しないためのアプローチについて解説する。
<後編:「ネクスト・THE MODEL」を考える 新時代の営業に求められる3つのアップデート>
むやみなTHE MODEL導入が招く3つの失敗
THE MODELでは下記の一連の概念と理論を紹介しており、「これは新しくて本質的だ」と多くの企業で導入が進んだ。
(1)営業活動の分業(マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセス)
(2)営業活動の計数管理(リード、MQL、SQL、商談数、受注数)
(3)営業担当のヘッドカウント管理(必要な営業人数の採用計画)
(4)失注商談のリサイクル(過去商談相手のナーチャリング)
しかし、ブームに乗ってむやみに、かつ中途半端に導入し、無理な分業をしてしまうことによる失敗も目立ち始めている。
まず1つ目は、分業によって「業務の閉塞感」「キャリアの毀損」を個々人に感じさせてしまうことがある。
THE MODELの分業論は、例えば、契約後の工程を知らない営業担当や、営業をしたことがないカスタマーサクセス担当を増やしてしまう。
部門の中で職種を限定してしまったがゆえの縄張りができてしまい、縄張りを超えたその先がどうなっているのか、どういう事をしているのか、分からなくなる。その結果、電話でのアプローチしかしたことがない、新規商談しかしたことがない、といった人材が多く生まれる。
セールスフォースでは、キャリアプランとして職種を変更していく在り方や、職種間を超えた会議体での交流など、分業をまたぐ組織設計の工夫をしている。業務の閉塞感やキャリア毀損がないように考慮をしているのだ。
しかし、むやみに分業体制だけを強制的に組織にインストールし、業務やキャリアの工夫ができていない企業においては、「なんでこんな分業をしているんだ」「THE MODELは悪なんじゃないか」と、不信感を醸成してしまう。
2つ目に、分業は顧客の体験プロセスをぶつ切りにしてしまい、大きな取引の絵を描けないという欠点もある。
例えば、フィールドセールス工程での提案内容が、カスタマーサクセス工程に引き継がれないというのはよくある話である。
本来は、顧客と取引を開始する前のタイミングで、どのようなきっかけで自社と接点を持ち、どんな話し合いを行い、誰がこの取引をどうやって前に押し進めて、どういう着地で取引が決まったか。自社にはどのような期待をしていて、どんなサポートを求めているのか――といった情報は引き継がれたうえで、「連続性のある体験」として顧客を支援したい。
しかし「売る役割(契約前)」と「支援する役割(契約後)」が分断されることで、これまでの話し合いがリセットされてしまう。「なんでこの契約を取ったんだろう」と分からないまま取引がスタートしてしまう。
後の工程で「さて、どうして導入されたんでしょうか?」と聞き直すと、顧客は「君たちと話してきたことが引き継がれていないのか? これまでの打ち合わせはなんだったんだ」となる。
3つ目に、THE MODELの分業によって、受注後に「支援する役割」は担えるが、「売る役割」は担う能力を失っていることがある。
契約後の工程で、取引金額を大きく膨らませることができないというケースも発生している。より深く踏み込んだ提案をすれば取引金額を上げていけるような大きな会社との取引があったときでも、カスタマーサクセス担当が予算獲得のための営業的なアプローチ能力を失っているため、取引を現状維持で済ませてしまう、という現象である。
THE MODELはインバウンドのリードを中心としたSMB企業への対応施策として練られたもの。職種を越境するような大手企業向けのイレギュラーなケースに対応できなくなってしまっているのだ。
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