分業体制の罠 「スペシャリストという名の作業マシン」を量産する組織に未来はない:トライバルメディアハウスのマーケ戦略塾(1/3 ページ)
業務が高度化すると、生産性向上を狙って「分業」がよく行われます。しかし、それが従業員の「やりがい」や「働きがい」を減らし、最終的に離職率や競争力を悪化させている課題があります。この問題はどう解消すべきでしょうか?
連載:トライバルメディアハウスのマーケ戦略塾
「思うように売り上げが上がらない」「マーケティングが効いているのか効いていないのかわからない」理由の多くは、戦略が論理的に組み立てられていないことに起因しています。本連載では、マーケ戦略策定に潜む10の落とし穴とその解決法を解説していきます。どうすれば「筋の良い」マーケティング戦略を組み立てることができるのか?――トライバルメディアハウスのマーケ戦略塾、開講です。
前回は「筋の良いマーケティング戦略が描けない理由」の後半戦に当たる”そもそも問題”として、有名な戦略フレームや成功事例が「現場で役に立たない真のワケ」と、それを回避する方法について解説しました。
業務が高度化してくると、生産性を上げるために分業がよく行われます。ただ、その分業体制が逆に従業員の「やりがい」や「働きがい」を減らし、離職率や競争力を悪化させている課題もあります。連載最終回の今回はこのあたりのテーマや、これからの時代に求められるマーケター育成の組織体制について解説します。
行き過ぎた分業化は何を生むのか?
本連載でも繰り返し解説してきましたが、マーケティングとは「お客さまに買っていただくために行う全事業活動」であり、マーケティングコミュニケーションの目的は「マーケティング目的を達成するためにお客さまの意識と態度を変えること」です。
人の気持ちが動かなければ行動は変わらない(売れない/買ってもらえない)わけですから、マーケティングもマーケティングコミュニケーションも本来は人間科学といえます。心理学や行動経済学とも密接に関わる、学際的な領域が広い分野です。
しかし、マーケターの仕事は「リサーチ」「商品開発」「チャネル営業」「広告宣伝」「広報PR」「販売促進」などと分業化が進んできました。
近年のデジタルマーケティング、特にデジタル広告領域は「運用型」と言われるように、PDCAによる最適化作業の積み重ねが数値の改善に直結します。そのため、リスティング広告やディスプレイ広告などによる獲得系広告、SNSアカウントを通じたエンゲージメントの向上など、分業の単位は近年さらに細分化しました。大手広告会社の中には、デジタル広告の中でもAmazon Adsだけに特化したチームや、不動産業界の顧客獲得に特化した運用型広告チームを持つところも現れるなど、細分化は加速している印象です。
確かに運用型業務は、前月の数値分析→戦術や打ち手の見直し(多くの場合は小さな改善作業)→実行→前月の数値分析という定型業務の繰り返しが少なくありません。定型業務の生産性は「分業」と「同じことを何度も繰り返すことによる経験効果」によって向上させやすいため、組織の論理からすれば業務の定型化、細分化、分業化の推進は間違った方向ではないのでしょう。
しかし、デジタルマーケティング業務の行き過ぎた分業化は「人の営みを科学し、再現可能性を高める」という本来の道筋から外れ、ダッシュボードに示される数値をまるでゲームでもしているかのように動かそうとする「人の体温や肌触りを感じない無機質な作業」になってしまっていないかと懸念しています。
問題はそれだけではありません。日々のデータを見ながら小さな改善を繰り返す“分業定型業務”は、マーケターという名のオペレーターを生み出し、成長実感を奪い、やる気を削ぐ可能性も否定できません。結果、生産性を向上させるはずの分業化によって離職率の向上やノウハウ流出が起こり、逆に生産性の低下につながる恐れもあります。
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