むやみな「THE MODEL」導入の落とし穴 失敗企業に共通する“犯人”とは(2/3 ページ)
セールスフォース・ジャパンが提唱するTHE MODEL、今や関連ある職種の方なら誰もが耳にしたことがあるだろう。しかし「THE MODELを導入したがうまくいかない」「THE MODELの分業体制で弊害が起こっている」など、最近は批判的な指摘も目立つ。THE MODELそのものが悪いのか、それともむやみに導入することが間違いだったのか、犯人探しをしていきたい。
THE MODELを導入して失敗……犯人は?
では、なぜこのような失敗が起きてしまっているのか。
その理由は、THE MODELが非常に「わかりやすい」からだ。わかるとは「分かる」と書く。THE MODELの分けられ方はとてもきれいで、論理的だ。よく分けられている。だから“分かる”。図で見たときに直感的に正しいと思えるし、営業活動の「正解」に思える。
例えば、THE MODELで整理されているのは、下記のような職域全体ないしは各職域の整理されたロジックである。
- マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスの分業図
- セールスの商談ステージの整理表
- マーケティングリードの転換率データ
- インサイドセールスのスコアリングロジック
- カスタマーサクセスの更新リスク整理表
これらは論理的にまとまっており、このまま導入すればうまくいきそうな正解の方程式にも見えてくる。しかし、THE MODELはあくまで著者が「私が正解としてこうであると考えた」というロジックや図であり、これが全ての企業組織の正解であると記されているわけではない。
ただ、これだけ明快なロジックと図で整理されてしまうと、一種直感的にこれが正しいと受けていれてしまう。著者が「あくまで私の会社でこうしたという話で、皆さんはそれぞれの成功モデルを考えてほしい」と訴えていたとしても、人はこれが正しいと思える成功法則にすぐに飛びついてしまうのだ。
つまり、THE MODEL導入失敗の犯人は、自社の状況を鑑みずに一種直感的に成功法則に頼ってしまった企業と、うっかり分かりやすくまとめ過ぎてしまった著者とのすれ違いにあるのだ。
THE MODELのロジックの美しさ、図の分かりやすさから生まれるのは「目的と手段の混合」である。
もともとのセールスフォースはTHE MODELの取り組みで「SMBのインバウンドリードを効率的に受注できる営業組織の仕組み化」という目的を設定していた。大手企業とのアウトバウンド営業やパートナー営業はすでにでき上がっていたからだ。(つまり、『THE MODEL』の書籍では、アウトバウンド営業の方法や、パートナー営業の方法についてはごっそり説明が抜け落ちている。)
しかし、THE MODELを読んだ人は「目的があって→このモデルを考えた」ではなく「このモデルが分かりやすい→うちでも導入しよう」というロジックで取り組んでしまう。
目的不在で手段が先行するものは、THE MODEL以外でもだいたい失敗する。THE MODELは素晴らしい施策である一方、分かりやすすぎたあまりに、読者は手段の説明に良くも悪くも反応しすぎてしまった。前提の目的整理を逃してしまっていることが、思考ミスを発生させてしまっている。
本来は、自社の事業や営業における課題を整理して、最良の方法論を考え、これを組織的に実行するという順番が正しいはずだ。しかし、THE MODELは方法論と実行方法の文章ボリュームが多く、課題や目的の整理については十分に記されていない。そのため、課題や目的をすっ飛ばして、THE MODELを導入しようという話が多発してしまうのだろう。
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