80億円集めた社債勧誘は「違法」──スタートアップは要注意、意外な“増資の落とし穴”:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
東京都中央区の資産運用コンサルティング会社、THE GRANSHIELDとその保証会社トラステール(東京都千代田区)の役職員ら計8人が、トラステールの社債を違法に勧誘し、80億円もの資金を調達した件で逮捕された。問題の行為は大きく3つに分けられ、中には一般的な企業の役職員でも犯してしまう可能性がある行為が含まれている。どんな行為が問題視されたのか。
“楽天モバイル債”は利回り12%、どこが違う?
ちなみに、今回問題となった「年利20%」という社債の条件だが、「こんな高い利回りにだまされる方がおかしい」と手厳しい声も見られる。低金利が続く日本の社債市場では、通常の社債の年利は0.08〜1.5%程度と低く、元本毀損可能性が高いいわゆる「仕組債」でも、年利5〜10%程度で落ち着くことが一般的だ。
しかし、2024年1月に発表された楽天グループ社債は、上場企業が発行するドル建て社債の中でも最も高い年利12.125%を記録しており、利率だけを見たら疑いたくなる読者もいるだろう。
社債の利回りは、一般にリスクの高さに比例する。信用リスクや財務上のリスクが高いほど、投資家はより高いリターンを期待するわけだ。
上に挙げた楽天グループの社債は、同社の設備投資に向けて発行された社債であることから、一部では“楽天モバイル債”などと呼ばれている。要するに、相対的に高いビジネスリスクを抱えているといえる。
これを消費者金融のローンで例えると、一流企業や公務員のような属性ほど低金利で大きな金額が借りられ、定職についていないような属性ほど、金利が高くなり、借りられる金額も小さくなる傾向に似ている。
結論として、年利20%を超える社債は理論的には存在可能だが、実際にそのような商品に出会った場合、その条件が充足されるかについては十分に警戒した方が良い。
さらに、赤字が継続している楽天の社債でさえも10%台で社債が発行されていることを考えると、「利回り20%」かつ「元本保証」という条件はやはり大きなリスクを伴う、詐欺をうたがった方が良い案件と考えて良いだろう。
そもそも、個人向けの銀行系カードローン、ビジネスローンの金利負担は現状14〜18%前後が上限である。そうであるならば、わざわざ年利20%の金融商品を募集しなくても、もっと良い条件で金融機関から調達できるはず。また、国や都道府県が提供する事業向け融資の中には金利1%未満で借りられるような制度もある。
周辺の融資商品や社債の発行状況を参考にすることで、金利に関する「相場感覚」を醸成することも、ビジネスにおいては決して小さくない意味を持つ。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
“時代の寵児”から転落──ワークマンとスノーピークは、なぜ今になって絶不調なのか
日経平均株価が史上最高値の更新を目前に控える中、ここ数年で注目を浴びた企業の不調が目立つようになっている。数年前は絶好調だったワークマンとスノーピークが、不調に転じてしまったのはなぜなのか。
不正発覚しても、なぜトヨタの株は暴落しないのか
2024年に入って、トヨタグループ各社で不祥事が発覚し、その信頼性が揺らぐ事態を招いている。世界的な自動車グループの不正といえば、15年に発覚したドイツのフォルクスワーゲン社による排ガス不正問題が記憶に新しいが、トヨタグループは比較的、株価に影響がないようだ。なぜこのような差が生まれているのか、
「バブル超え」なるか 日経平均“34年ぶり高値”を市場が歓迎できないワケ
日経平均株価が3万5000円に達し、バブル経済後の最高値を連続で更新し続けている。バブル期の史上最高値超えも射程圏内に入ってきたが、ここまで株価が高くなっている点について懸念の声も小さくない。
ブックオフ、まさかの「V字回復」 本はどんどん売れなくなっているのに、なぜ?
ブックオフは2000年代前半は積極出店によって大きな成長が続いたものの、10年代に入って以降はメルカリなどオンラインでのリユース事業が成長した影響を受け、業績は停滞していました。しかしながら、10年代の後半から、業績は再び成長を見せ始めています。古書を含む本はどんどん売れなくなっているのに、なぜ再成長しているのでしょうか。
孫正義氏の「人生の汚点」 WeWorkに100億ドル投資の「判断ミス」はなぜ起きたか
世界各地でシェアオフィスを提供するWeWork。ソフトバンクグループの孫正義氏は計100億ドルほどを投じたが、相次ぐ不祥事と無謀なビジネスモデルによって、同社の経営は風前のともしび状態だ。孫氏自身も「人生の汚点」と語る判断ミスはなぜ起きたのか。

