迷走する「日本版ジョブ型」 成果主義への転換だけじゃない、目的別“3つのタイプ”とは?(3/3 ページ)
ジョブ型人事制度や職務給への関心が高いが、いまだにそれらを取り巻く議論は迷走している感がある。そこで本稿では、ジョブ型人事制度の導入状況を確認するとともに、導入の背景は何か、「日本的ジョブ型」とは何かを整理し、今後の検討の方向性を考察する。
専門職と一般社員層のタレントマネジメントが課題
人件費の合理性は重要だが、同時にタレントマネジメントのニーズへの対応をおざなりにしてはならない。
ジョブ型人事制度導入企業の実態を見ると、ライン管理職については、3つのタイプとも相応に定義され、適所適材の配置施策が進みつつある。しかし、専門職については、業種による濃淡も大きいが、ライン管理職と比べると取り組みが消極的だ。
まずはライン管理職からという優先順位は理解できるものの、専門職については概して課題が大きい。自社にとって不可欠な専門職ポジションを定義するところから始めなくてはならない企業が多くありそうだ。
また、一般職層については、管理職層にジョブ型を導入しても一般社員層には導入しないという企業が珍しくない。そもそも、日本の給与相場は、ほとんどの職種については職種よりも企業の業種や規模に左右される。その意味では職種別の職務給編成はあまり現実的ではなく、一般社員層の従業員にとってのジョブ型とは給与というよりもキャリア形成の問題と見るべきだろう。
この「従業員にとって」という部分は重要だ。昨今の若手人材は、「やりたい仕事が就職時点で決まっていて配属を約束しなければ入社しない」。さらに、「入社後も異動・配置先が希望に沿わなければ退職してしまう」「昇進・昇格のスピード感を重視する人も多い」との声を耳にすることが増えてきた通りだ。企業と従業員が「選び選ばれる」関係になった昨今では、一般職層のジョブ型は職務給よりも手挙げ異動施策を中心に据えて考えるほうがよさそうだ。一般社員層に限らず管理職層も含め、長期雇用の枠組みの中にある日本企業にとってのジョブ型はキャリア形成上のイシューだと捉えるべきだ。
まとめ
ジョブ型人事制度や職務給に対する関心が高まっており、その背景には「人件費の合理性」の向上と「タレントマネジメント」推進のニーズがある。企業におけるジョブ型の導入は、大きく「グローバル志向型」「組織長厚遇型」「フレキシブル型」という3つの異なるアプローチに分類できるが、概してライン管理職に焦点が当たっており、専門職や一般社員層はおざなりといえなくもない。
長期雇用慣行下の日本企業におけるジョブ型制度は職務給の導入だけでなく、むしろ、従業員のキャリア形成やタレントマネジメントの観点から考えるべき課題である。
著者プロフィール
藤井薫
パーソル総合研究所 上席主任研究員
電機メーカーにて人事・経営企画スタッフ、金融系総合研究所にて人事コンサルティング、タレントマネジメントシステム開発ベンダーにて事業統括を担当。2017年8月パーソル総合研究所に入社し、タレントマネジメント事業本部を経て2020年4月より現職。著書に『人事ガチャの秘密』(中公新書ラクレ)。
株式会社パーソル総合研究所
パーソル総合研究所は、パーソルグループのシンクタンク・コンサルティングファームとして、調査・研究、組織人事コンサルティング、タレントマネジメントシステム提供、人材開発・教育支援などを行う。経営・人事の課題解決に資するよう、データに基づいた実証的な提言・ソリューションを提供し、人と組織の成長をサポートしている。http://rc.persol-group.co.jp/
Copyright © PERSOL RESEARCH AND CONSULTING Co., Ltd.All Rights Reserved.
関連記事
管理職とプロフェッショナル職 どちらを選べばより稼げる? 人事のプロが解説
従業員のキャリアに、マネジメント職(組織長)とプロフェッショナル職(非組織長、専門職)の2つの選択肢を設ける企業が増えてきました。両者の給与をどのように設定・調整するかは、自社の人事制度を試行錯誤する人事職のみならず、キャリアに悩む多くのビジネスパーソンにとっての関心事でしょう。マネジメント職とプロフェッショナル職、どちらを選ぶ方が給与処遇面で有利になるのでしょうか。
幹部候補か、“万年ヒラ”か キャリアの分かれ目「30代以降の配置」を、人事はどう決めている?
「育成」の観点から異動配置させる20代が過ぎると、多くの企業は「幹部候補の優秀人材」と「それ以外」の社員を選別します。人事は、そうした異動配置をどのように決めているのでしょうか。年代層別の異動配置のロジックをみていきます。
「優秀でも残念でもない、普通社員」の異動に、人事が関心を持たない──何が起きるのか
社員の異動を考える際、人事部が真っ先に関心を持つのは「優秀社員」と「残念社員」。その間にいる大多数の「普通社員」は後回しにされがちという実態がある。しかし、この層への取り組みを疎かにすると、ある懸念が生まれる。
人事異動のトレンド「キャリア自律のため本人・事業部門任せ」は、本当に正解? “適材”が先か、“適所”が先か
事配置の基本方針として「適所適材」を掲げる企業が増え、これからの配置は適所適材だ! という雰囲気です。しかし、ちょっと待ってください。
「その他大勢」の社員が“開花できる場所”はどこ? 非管理職層のタレントマネジメント入門
非管理職層の異動配置に「明確な方針がある」企業は約2割。後回しにされがちな「その他大勢」の社員を適材適所に配置するには? 自社に適した配置施策の組み合わせを探るために、知っておくべきこととは。

