「面接と話が違う!」 部下の“残業拒否”を、受け入れる義務はある?:Q&A 社労士に聞く、現場のギモン
先日、新しく入った中途社員の部下から「面接で聞いていた残業時間と違う。残業を拒否したい」と申し出がありました。部下の残業拒否は聞き入れるべきでしょうか。
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Q: 私の所属する部署は、社内でも残業時間が多い部署です。先日、新しく入った中途社員の部下から「面接で聞いていた残業時間と違う。これほど働くなら入社していなかった」「残業を拒否したい」と申し出がありました。
人事に確認すると、全社平均の残業時間のデータを伝えた可能性があるとのことでした。こうした場合、どのように対応すべきなのでしょうか。部下の残業拒否は聞き入れるべきでしょうか。
「話が違う!」 部下の残業拒否は、聞き入れるべき?
A: まずは誤解を招いた経緯や事情を丁寧に説明する、誠実な姿勢が必要です。その上で、会社が労働者に残業を求められる条件や、また労働者が拒否できる場合を確認しましょう。
連載:Q&A 社労士に聞く、現場のギモン
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そもそもの問題は、面接を行った人事担当者が誤解を招くような内容、データを伝えたことに端を発しています。
まずは率直に、この部下に「面接では、全社平均の残業時間のデータを伝えてしまったため、伝えた時間を超える残業は発生しないものと誤解を招いてしまったようだが、実際には各部署で、業務上必要な残業時間が発生しうる」と丁寧に説明する必要があるでしょう。
もっとも、会社が社員に残業をさせるためには、法的な要件があります。それらを満たしていることが前提です。要件の内容を確認しましょう。
1つ目は、労使協定の締結と行政官庁への届け出です。
労使協定とは、いわゆる36協定といわれるものです。労働基準法36条で「労使協定を締結し行政官庁へ届出た場合に限り、労働時間の延長と休日労働ができる」と定められています。
2つ目は、個別の労働者に残業を命令できるよう、労働契約上、残業を行う義務が設定されていることです。つまり、労働契約上の根拠の存在です。
具体的には、就業規則や労働契約書などに「36協定の範囲内で、会社は時間外労働を命じることができる」旨の規定が必要です。また、その就業規則は周知されていなくてはいけません。
ただし、こうした適正な手続を踏んでいても、残業を拒否できるケースもあります。例えば、命令された社員に体調不良など正当な理由があったり、理由のない残業であったりする場合には、拒否することは可能と考えられます。法律でも次のような事情がある場合には、同様に残業を拒否できると定められています。
- 妊娠中あるいは産後1年を経過していない
- 3歳未満の子を養育している
- 小学校就学始期までの子の養育や、要介護状態にある家族を介護している(1カ月で24時間、1年で150時間を超える時間に限る)
従って、当該の部下に対しては前述の通り、会社が「労働者に残業をさせるための要件」を満たしているということを前提として、誤解を解く説明を丁寧に行います。その上で、業務上必要な残業を業務命令として行い、理解を求めるようにしてください。
それでも部下が、「面接で聞いていた残業時間を超えることはできない」として、正当な理由なく残業拒否を続けるようであれば、それが社内規定による懲戒処分の対象となる場合には、処分も検討する必要が出てくるかもしれません。あるいは、部下自身が退職を希望するかもしれません。
この部下に、残業を拒否する正当な理由がない場合には、会社は、その申し出や拒否を聞き入れる必要はないものと考えられます。しかし、誤解を招いた経緯や事情などを丁寧に説明する義務はあり、誠実な姿勢が必要なのではないでしょうか。
著者:近藤留美 近藤事務所 特定社会保険労務士
大学卒業後、小売業の会社で販売、接客業に携わる。転職後、結婚を機に退職し、長い間「働く」ことから離れていたが、下の子供の幼稚園入園を機に社会保険労務士の資格を取得し社会復帰を目指す。
平成23年から4年間、千葉と神奈川で労働局雇用均等室(現在の雇用環境均等部)の指導員として勤務し、主にセクハラ、マタハラなどの相談対応業務に従事する。平成27年、社会保険労務士事務所を開業。
現在は、顧問先の労務管理について助言や指導、就業規則等規程の整備、各種関係手続を行っている。
顧問先には、女性の社長や人事労務担当者が多いのも特徴で、育児や家庭、プライベートとの両立を図りながらキャリアアップを目指す同志のような気持ちで、ご相談に乗るよう心がけている。
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