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無印良品の「リユース商品」じわり人気 従来店舗とは異なるユーザー体験がカギグッドパッチとUXの話をしようか(2/2 ページ)

リユース品に注目した「リユース消費」の人気がじわじわ高まっています。良品計画やスターバックス、ユニクロなども取り組んでいます。その中でも無印良品の「リユース商品」に注目して、その人気の兆しを分析していきます。

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「サステナブル」や「エシカル」はモチベーションになりづらい?

 「自分にとって良い」から人は動く。つまりそれは「モチベーション」の論理です。

 これまでの連載でも紹介した「B=MAT」という消費者行動モデルに当てはめて考えてみます。これは「動機、能力、きっかけ」の3要素によって行動は起きることを示したものです。


「B=MAT」モデル(画像:筆者作成)

 さて、これをReMUJIに当てはめてみましょう。

 「かっこいい服が欲しい」「服を見たい」といったものが「動機」です。新品と比べて値段が変わらなかったり、安かったりする「低い障壁」が「買える」という「能力」。そして、無印良品の店舗に立ち寄れば売っているのが「きっかけ」。このように、サステナビリティの要素を含めずとも購入という「行動」が成り立ちやすいのです。

 もちろん「地球にやさしい買い物をしたい」といった動機もあるでしょう。ただし、大抵の場合、それと合わせるような「別の動機」や「低い障壁」が関連しています。

 その他の例として、スターバックスの「カップ値引き」を挙げてみます。タンブラーやリユーザブルカップを持参すると、ドリンク1杯あたり22円値引きされるというもので、すっかり日本でも定着した取り組みです。カップを繰り返し使用することはまさにサステナブルであり、値引きされるというインセンティブが「日常使いするものだからこそ安く買いたい」という動機に当てはまったと考えられます。

 「身銭を切る」という行動はなかなかにハードルが高いもの。だからこそ、サステナビリティ観点の動機だけでなく「かっこいい服が欲しい」という別の動機や「安価である」という低い障壁が備わってこそ、行動につなげることができるのです。リユース消費の人気は、このような消費者行動モデルに照らしても妥当であると捉えられます。

 ちなみにですが、メルカリUSが発表した「2023年度リユースレポート」では、中古品購入の動機として「節約」「サステナブルな暮らし」に加えて「ユニークで面白いものを見つけたい」を挙げています。それはまさに、サステナビリティ観点の動機に合わさるものとして機能しているのでしょう。


中古品購入の動機として、節約やサステナブルな暮らしに加えて、ユニークで面白いものを見つけたいという意見も見られた(画像:メルカリUS 2023年度 リユースレポート PDFより)

「サステナブルな行動ができている」という成功体験を

 さて、先述のとおり「サステナビリティ観点の動機」単体では行動につながりにくいだけで、サステナビリティ観点の動機というものは確かに存在しています。

 ここで参考にしたいのは、2023年に消費者庁が実施した「消費生活意識調査」(PDFより)の結果です。リユース消費と近しい文脈で語られることの多い「エシカル消費」に関する設問で、「エシカル消費に取り組む理由」としては「同じようなものを購入するなら環境や社会に貢献できるものを選びたい」「環境問題や社会問題を解決したい」と回答した人がそれぞれ4割以上いました。

 また、アクセンチュアの「グローバル消費者調査2021」を見ると、「サステナビリティに配慮した製品・サービスにより高いお金を払ってもいい」と回答した人の割合は、日本が欧米諸国を上回っているという結果も出ています。

 ちょっと意外かもしれませんが、日本人のサステナビリティに対する意識は決して低いわけではありません。けれど行動につなげることは簡単ではないのです。


画像:筆者作成

 であれば、先述のように「自分にとって良い」と思える行動を組み合わせることで「サステナブルな行動ができている」と実感してもらう──こんなアプローチがリユース消費の体験では生まれているのです。


画像:筆者作成

 これはまさにReMUJIが行なっていることだと捉えられます。

 ReMUJIの店舗では「ReMUJIの取り組み」といったリユースのプロセスや、「服は布から」というメッセージを掲げたポスターが掲げられています。服だけでなく、サステナビリティに関する情報だけでもなく、ストーリーとしてセットで提供している。こんな店頭体験があるからこそ、結果としてサステナブルな行動の実感が沸くというものです。

 サステナビリティの波には自分から飛び込むのではなく、いつの間にか波に「乗れていた」。ReMUJIをはじめとしたリユース消費で生まれているのは、そのような成功体験なのでしょう。

ヒットするのは「企業側のスタンス」も変わってきたから

 ここまで、リユース消費におけるユーザー体験を軸に「サステナビリティとの付き合い方」を考えてきましたが、リユース品はサステナブルだから良いという単純な話ではなさそうです。リユース品だからこそ持っている「それぞれの商品のユニークさ」がポイントになり、「それいいな」と思える体験が生まれ、結果としてサステナブルな行動につながっています。

 今はまだヒットの「兆し」段階であるリユース消費。本格的なヒットになり、リユース品の製造・販売を事業として成立させるには、企業側としてもそれなりの数を売る必要があり、「本業」として力を入れるからこそ実現するものなのです。視点を変えると、CSRのスタンスでは起こりづらいともいえそうです。

 ReMUJIのフラッグシップである無印良品 新宿靖国通り店は、2階フロアの半分をReMUJIが占めています。地価や施設の賃料も高いと思われる新宿エリアでフロアの半分。企業目線で考えると、ブランディングの意味合いもあるのかもしれませんが、やはりある程度の売り上げも欲しいところでしょう。


無印良品 新宿靖国通り店(画像:良品計画プレスリリースより)

 企業は企業で、リユースなどのサステナブルな取り組みを商売として持続させるための道を模索しています。それはまるで、私たちが「かっこいい」「おしゃれ」「楽しい」といった動機からサステナビリティと向き合うことと似ているのかもしれません。

 生活者は無理なく、自分にとっての良いことをしながらサステナビリティを実感し、体現していく。そうした動きが今リユース消費の現場で起きはじめており、それがメジャーな動きになった頃には、きっと今よりも多くの企業から、より大きなヒットが生まれているはずです。

 一見すると意識の高いムーブメントでも、しっかりと自身へのメリットはあるはず。そんなユーザー体験に目を向けると、今の時代ならではのヒット商品やサービスを考えられるのかもしれません。

著者紹介:高階有人

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株式会社グッドパッチ デザインストラテジスト/サービスデザイナー。大手SIerにてシステム開発やデジタルビジネス企画を経験。その後コンサルティングファームにて、官公庁向けのITコンサルティングや調査研究に従事。2021年にグッドパッチに入社し、現在はクライアント企業の事業変革やイノベーション創出を支援。暮らしや仕事になじんでいくサービスを生み出すことを信条としている。趣味は音楽とアイスランド。


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