“ガラパゴス的風習”? 取引先同士の「株の持ち合い」解消が進むワケ:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
企業間で株式を相互に保有し合う「政策保有株」。グローバル経済下においては批判されることも珍しくない。なぜなのだろうか。
日銀は大量保有、政策に矛盾も?
海外投資家の政策保有株に対する懸念を払拭(しょく)するために、政府や規制当局が政策保有株の解消を要請していく姿勢は合理的であるが、その一方で、政府も政策保有株的な政策をとっている点で矛盾がある。
それが、日銀やGPIF、新NISAなどによる株価指数ETFや投資信託(インデックスファンド)の保有推進にある。これは近年「物言わぬ株主」問題とも言われている。
そもそも、物言わぬ株主とは、企業の経営に積極的に関与せず、議決権を行使しない、または行使しても経営に対して批判的な意見を出さない株主を指す。このような株主は、従来は政策保有株を有する関連会社がメインであった。
しかし、日銀やGPIFのように個別企業の経営に口出ししないにもかかわらず多額の株式を保有する公的機関や、個別企業に対して議決権を行使しないインデックスファンドを運用する投資法人の存在感が高まっている。
このような物言わぬ株主が増加すると、政策保有株のデメリット同様、企業の透明性やガバナンスの低下が懸念される。現に、大規模な不正や法令違反に揺れるトヨタ自動車は、不祥事が次々と明るみに出たにもかかわらず過去1年で40%以上も株価を上昇させている。トヨタ自動車はTOPIX指数の組入比率が3.5%とトップである。株式指数に連動するETFや投資信託を買い入れていけば、トヨタ株を買い続けなければならないのである。
このような状況では、トヨタ自動車がどれだけ不正をしても株価は下がらないというケースも考えられる。これが物言わぬ株主の増加によってガバナンスが低下していくメカニズムである。
プライム市場の全銘柄、日銀が平均7%保有?
日本においては、インデックスファンドや日銀ETF、年金などの物言わぬ株主の保有が増えている。これらの機関投資家は、企業の長期的な成長を支えるために株式を保有し、経営に直接的な関与をしない。
日銀のETFの残高は時価ベースで約70兆円となっており、それだけで東証プライム市場全体の時価総額約900兆円に対して7.7%を占めている。つまり、全てのプライム上場銘柄の1割弱は、日銀が間接的に“物言わぬ大株主”になっていることになる。
日本政府は企業に対して政策保有株の解消を求めているにもかかわらず、より大きな文字通りの「政策保有株」にはノータッチなのだ。民間による政策保有株の持ち合い解消が進むことは歓迎すべきかもしれないが、それだけでは日本企業の透明性向上と海外投資家から見た日本市場の魅力向上には不十分ということだ。
好意的に受け取るとすれば、民間による物言わぬ株主の役割は、日銀や年金基金などの公的機関やインデックスファンドに移転し、これらの機関投資家が企業の長期的な視点を保ちつつ、持続可能な成長を支援する役割を担うように変遷したともいえるかもしれない。
しかし、中央銀行が株式を間接的に大量保有するのは、世界的に見て日本の存在感が大きい。今後も日本企業の国際競争力を高めるためには、日銀などが間接保有する政策保有株にもメスを入れ、ガラパゴス化を避けていくことが求められる。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら
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