クルマの乗り心地はもっと良くなる? カヤバのテストコースで感じた未来:高根英幸 「クルマのミライ」(2/5 ページ)
ダンパーメーカーのカヤバで、試作品のダンパーを搭載した車に試乗した。騒音や振動が非常に少なく、従来品との乗り味の違いに驚いた。国内の製造業を発展させていくためには、常に進化を続けていくカヤバのような姿勢が重要だ。
新型ピストンバルブで乗り味が大きく変化
ここまで微細な振動をコンベンショナルなダンパーが吸収できるようになるとは、ちょっと驚きだ。電動車の割合が増えていくなか、振動の発生源が減っていくと、残る振動がより気になっていく。足回りから伝わる振動がここまで減らせるのは、今後大きなアドバンテージとなりそうだ。
それを実現したのは、新開発のピストンバルブとベースバルブにあるらしい。ピストンバルブはオイルの流路を見直して抵抗を軽減しているだけでなく、さまざまな車種やグレードに合わせて特性を調整するために、セッティングの幅を広げられるよう設計変更されている。ベースバルブも同じように油路の形状を変更することで圧力損失を軽減し、減衰力の応答性を高めているそうだ。
最新のCFD(数値化シミュレーション)を使って形状の最適化を図っているのは当然だが、この20年の間にコンベンショナルなピストンは6世代もバージョンアップされている。
ピストンバルブ自体もポートにより減衰力を発生させているから、それを踏まえてシム(薄いワッシャー状のパーツ)を組み合わせて減衰特性を作り上げる。新しいピストンバルブ、ベースバルブは圧力損失を低減、すなわち本体が発生する減衰力を減らして、シムなどの可変部分に減衰力の割合を大きくすることで、より素早く、柔軟な減衰力特性を実現させているようだ。
コンベンショナルな複筒式のダンパーは自動車メーカーへの納入価格が安く、かけられるコストの制約が大きいが、ピストン形状とセッティングで生み出せる乗り味がここまで上質なモノになるなら、選ばれる機会は増えそうだ。
カヤバは独立系の油圧ダンパーメーカーとしては最大規模を誇る企業だけに、生き残るためには切磋琢磨が欠かせないのだ。新型ピストンバルブによる乗り味の変化は、そんなことを思い出させるほど、印象的な出来事だった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
なぜテールランプがまぶしいクルマが増えているのか クルマづくりに欠けている視点
前走車のテールランプをまぶしく感じることが増えた。平時にリアフォグランプを点灯するのは問題外だが、ブレーキランプの規制変更によるデザイン性の追求という要因もありそうだ。環境性能や安全性だけではなく、周囲に配慮する工夫もますます必要になるだろう。
ハイブリッドが当面の“現実解”である理由 勝者はトヨタだけではない
EVシフトに急ブレーキがかかっている。CO2排出や電力消費の面で現実が見えてきたからだ。現時点ではハイブリッド車、そのなかでもエンジンで発電してモーター走行するシリーズハイブリッドが最も現実的な方式だ。その理由とは……
マツダの「MX-30 ロータリーEV」 現時点で“EVの最適解”と言えるワケ
マツダがロータリーエンジンを復活させたことで注目される「MX-30 ロータリーEV」。ロータリーエンジンを発電に使うこのクルマは、MX-30のEVモデルとは別物の乗り味だが、日常で使いやすい仕様になっている。今後のEV普及に向けて、現時点で「最適解」と言えそうだ。
クルマの価格はまだまだ上がる? ならば海外格安EVにどう対抗すべきか
クルマの価格が高くなったという声をよく聞く。昔と比べて装備が充実していることもあり、価格は上がった。今後も、電動化やソフトウェアの高度化など、価格が上がる要素ばかりだ。安価な中国製EVなどに負けないためにも、真の価値を打ち出していくことが必要だ。
クルマの“顔つき”はどうやって決まる? デザインに表れる思惑とは
自動車のフロントマスクは各メーカーにとって重要な要素だ。ブランド戦略によってその方針は異なる。海外メーカーには、デザインの継承を重視しない姿勢も見られる。一方、国内メーカーも方針はさまざまで、デザインから各社の思惑も見えてくる。


