「朝倉未来VS.平本蓮」で“THE MATCHの視聴数”を超えるか RIZIN代表に聞くPPVビジネスの原点(2/2 ページ)
格闘技イベント「RIZIN」(ライジン)の榊原信行CEOに、日本でのPPVビジネスの原点と、なぜ格闘技がここまで人気を博したのかを聞いた。
米国でのPPVによる視聴モデルを、日本でいち早く展開
PRIDE1.で「髙田延彦VS.ヒクソン・グレイシー戦」が実現するのは1997年10月。両者の意思を確認できたのが1996年6月だ。1年4カ月かけて試合を実現するために、榊原氏は奔走する。「当時はまだ30代の会社員だったので『髙田延彦VS.ヒクソン・グレイシー』戦を実現させるため、東海テレビの会議でプレゼンをしました。2人の資料を用意して、場所は東京ドームで、全国中継をして、と企画について説明しましたが、『名古屋の地方局であるわれわれがどうやって東京ドームをおさえて、全国ネットの放送枠を確保するんだ!』などと一蹴されました。そのような批判がくることは私も理解していました」。
榊原氏は東京に足を運んでは全国放送を実現するためにさまざまなテレビ局の関係者に提案をした。しかし全て断られた。何とか東京ドーム開催は実現することになり、最終的にはCS放送のパーフェクTV!(現在のスカパー!)での放送が決まった。
「地上波放送の障壁となったのがルールの問題でした。総合格闘技なので、馬乗りになって相手を殴るといったバイオレンスなシーンは放送できないと、どこの局も判断をしました。当時パーフェクTV!はローンチしたばかりのサービスでした。最終的に格闘技のコンテンツということもあり、PPVでの配信が決まりました。今でこそ、PPVで格闘技やコンサートなどを視聴することが当たり前になりました。ですがその原点は30年近く前の1997年にあります。実はRIZINの前身PRIDEの時代からPPV配信をしていたのです」
榊原氏は、当時PPV配信を決めた理由を語る。「絶対にPPVの時代が来ると予見していました。なぜなら海外ではすでにPPVによる視聴が広まっていたからです。1993年に立ち上がった(世界最高峰の総合格闘技団体)UFCは世界で一番バイオレンスな競技として話題になり、すぐにPPVの購入件数は30万件、40万件と増えていきました。当時のパーフェクTV!の加入件数は30万件程度でしたが、最終的にPRIDE.1では3万件のPPVを売り上げました。パーフェクTV!の方々が非常に驚かれていたのを覚えています」。
格闘技コンテンツとPPVの相性の良さについては、以下のように分析する。
「コンサートと違って、格闘技の場合、その試合の結果によって次のマッチメイクなどの展開が変わってきますね。だからこそ(視聴者に)“今”見たいという気持ちにさせる。そして米国で根付いている理由は、スポーツベッティングがあるからなんです。賭けの対象であるから、格闘技にそこまで興味のない層も視聴します。今後、日本も世界に負けない市場規模に引き上げるためには、スポーツベッティングの環境を整備する必要があると思います」
1997年10月11日に開催されたPRIDE1.で「髙田延彦VS.ヒクソン・グレイシー」戦は1ラウンド、4分47秒で“腕ひしぎ十字固め”により、髙田が敗北する。髙田の完敗を受け、榊原氏はリアルファイトの残酷さを目の当たりにした。一方、自身の落胆とは違った周囲の評価を得ることになる。
「髙田さんが負けるイメージはなかったので、惨敗に打ちひしがれました。しかし周りからの評価は違っていて、PPVや大会を収録した1万円のVHSは1万本以上も売れました。そしてPRIDEの第2弾、第3弾の開催が望まれたのです」
こうして2000年代前半に格闘技ブームを起こしたPRIDEが誕生。その後THE MATCH 2022がきっかけとなり、配信側のプラットフォームやネットワーク環境と、受け手側のデバイスや通信環境が整ったことを背景に、PPVビジネスは開花した。そしてPRIDE1.から27年後の今年7月28日、名前はRIZINに変わるも、日本有数のコンテンツとして超RIZIN.3が開催される。RIZIN9年間の集大成として、日本の格闘技史、いや興行史の記録を塗り替えるかに注目だ。
著者プロフィール
鳥井大吾(とりい・だいご)
法政大学経済学部 卒業後Webマーケティング会社にコンサルティング営業として入社。その後、がん情報メディアの運営に携わり、医療者やがん体験者へのインタビューや記事執筆を行うも、2019年10月に退職。現在はクリエイティブ制作のディレクター業務を行う。
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