リテールメディアは“何が”強みなのか? マーケティングに与えるインパクトとは(3/3 ページ)
マーケティング手段として徐々に実装が進むリテールメディア。小売りではなく、メーカーにとってのメリットとは?
「フロントメディア×サンプリング」の強力さ
北米で「フロントメディア×サンプリング」が重要視されている理由は、以下の先行研究からも分かります。
- サンプリングを受け取った消費者は、店舗やスポンサーメーカーに対して特別なロイヤリティーを感じるきっかけになる(Laochumnanvanit and Bednall 2005)
- 実際に製品を使用する体験は、自ら選択し、自ら生み出すものであるため、体験なしに起こる学習とは対照的に、想起の面で永続的な優位性を持つ(Hoch 2002)
- サンプリングのような経験的な学習様式を経て得られた製品に関する知識は、強く保持されたブランド信念や態度を発展させ、将来の製品使用とより強い相関関係を持つ(Fazio and Zanna 1978; Smith and Swinyard 1988)
上記の研究で指摘されているように、サンプリングは広告コミュニケーションの強力な手段の1つとされています。そこに、リテールメディアでの“実購買データによるターゲティング”が組み合わされば、さらに強力になるのは間違いありません。
単なる広告では邪魔に感じられたものが、サンプリングオファーになった途端、積極的に使いたいものに変わる。サンプリングオファーとは、メーカーにとっていわばマーケティング上の“ファストパス”のようなものだともいえます。
加えて、「フロントメディア×サンプリング」の強みとして忘れてはならないのは“店頭という空間が味方になる”という視点です。
サンプリングの手法として、サンプリングオファーを受け取った来店者自身が、その商品を店頭の棚から探し出し、レジまで持ってきてもらうというものがあります。この手法は店頭のスタッフの手を煩わせないという目的もあるのですが、重要な点は来店者が自ら新しい商品を棚から探し出すという体験にあります。普段の買い物とは違った宝探しのような体験を通して、商品と店舗双方に対してポジティブな認知と興味が強く形成されるでしょう。
実際に消費者に店頭で動いてもらうという行動・体験を引き起こせるのはフロントメディアの強みです。店頭空間のポテンシャルをいかんなく発揮できるのがフロントメディアであり、これが北米を中心に「フロントメディア×サンプリング」が重要視されている理由です。
リテールメディアは「ナーチャリングプラットフォーム」である
先述しましたが、リテールメディアで展開する施策はリテーラーの会員IDにひもづいた1st partyデータを活用しているため、施策展開後の消費者の動きを把握できます。つまり、LTVから施策を評価し、より本質的なアプローチが可能になるわけです。
従ってリテールメディアの最大のポテンシャルとは、ブランド経営へのインパクトを長いタームで推し量れることだと著者は考えています。そう考えると、リテールメディアは単に「広告を配信できるメディア」ではなく、消費者のナーチャリングを行うプラットフォームとして捉えるべきではないでしょうか。
筆者プロフィール:松田伊三雄
カタリナマーケティングジャパン 取締役副社長 Chief Operating Officer
国内大手アルコール飲料メーカー及びグローバル消費財メーカーにて流通企画、ブランディング、営業・戦略部門を統括。国内大手GMS及びCVSのマネジメントも経験、ウォルトディズニージャパンでブランドライセンスによるマーケティングサポートのマネジメントを経て2019年カタリナマーケティングにVPとして入社。CMO、取締役CCOを経て2024年6月より取締役副社長COOとしてリテールメディアエリアを統括。
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