餃子の王将が絶好調 なぜ、値上げしたのに客が増えているのか?:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
2024年3月期、餃子の王将を運営する王将フードサービスが初めて売上高1000億円を突破した。同社は値上げを実施したが、その後も客単価のみならず客数も向上させ、売上増を実現している。なぜなのか。
フランチャイズ方式に求められる「社会的責任」
「直営」に力を入れるビジネスモデルが同社の成長を牽(けん)引している一方、市場ではコメダ珈琲店のようにフランチャイズを主体として成功している企業もある。ではフランチャイズと直営にはそれぞれどんなメリットがあるのだろうか。
フランチャイズのメリットは、企業が自己資金を投入することなく、フランチャイジーの資金を利用して事業を拡大できることだ。これにより、迅速な市場シェアの拡大が可能となる。また、各店舗の経営リスクはフランチャイジーが負担するため、本部は直接的なリスクを軽減しつつ、安定したロイヤリティー収入を得られる。
デメリットとして、本部が全ての店舗を直接管理するわけではないため、提供するサービスの質にばらつきが出ることがある。
「業務スーパー」を運営する神戸物産は、全国的にフランチャイズ展開を行っているが、北海道では賃金未払いに端を発したフランチャイジーの破産を招いた。神戸物産はフランチャイズ制度の見直しを迫られており、各フランチャイズ店舗に対する監督を強化し、労働法規の順守を徹底するための指導を行うなどの対応を労働基準監督署から求められたのだ。
フランチャイズ展開を行う企業にとって、各店舗の経営管理は、ブランドの信頼性を維持するためにも重要なのだ。
一方で、王将フードサービスが得意とする、直営店舗を中心とした経営戦略は、品質管理と顧客満足度の向上という観点でメリットがある。そして、あまり言及されることはないが、直営重視の戦略は、特に大規模な企業においては、社会的責任の観点からも評価されるべき点が多くある。
まずは品質の観点から確認したい。直営方式では、本部の指導や研修を直接店舗に反映させられるため、ブランドイメージの維持と顧客満足度の向上が期待できる。また、従業員の育成や労働環境の改善に対して、本部が直接的な責任を負う。従業員のモチベーションやサービスの質向上を本部が手掛けられる。
次に、社会的責任の観点だ。王将フードサービスの直営中心の戦略は、フランチャイジーに過度な経営リスクを押し付けないという点で、社会的責任を果たしていると言えるだろう。フランチャイズ方式では、仮にフランチャイジーが失敗した場合、その影響はフランチャイジーの生活や地域社会に大きなダメージを与える。
直営戦略は体力のある大企業側が失敗リスクを引き受けるという構造が適しているのに対し、フランチャイズは体力に乏しいスタートアップ同士が組んで一気に市場を取りきってしまう構造が適していると言える。
体力がついた企業は、フランチャイズから直営化に切り替えていくことが、社会的な責任の観点からも重要だといえよう。巨大な資本を有する企業がいつまでもフランチャイズ依存のビジネスで展開するのは、力関係の弱い者に失敗リスクを転嫁しているという批判を受ける可能性もある。直営店の比率を増やしていくのは、持続可能な成長を実現するための重要な要素だと考えられる。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら
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