『コロンブス』で物議のミセス、キャンペーン参加見送りは妥当? 日本コカ・コーラの判断に疑問を覚えるワケ:長浜淳之介のトレンドアンテナ(4/4 ページ)
ユニバーサル ミュージックが、日本コカ・コーラのキャンペーンについてMrs.GREEN APPLEの参加を見送ると発表した。楽曲『コロンブス』のミュージックビデオが公開停止となってから1カ月以上が経過したタイミングであり、なぜ今なのか。そして、その判断は果たして正しいのだろうか。
法令とポリコレは違う だからこそ、念入りになるべきだった
なお、今回の騒動に音楽ファンは冷静であり、『コロンブス』騒動によってMrs.GREEN APPLEへの注目が高まり、その音楽性に触れる人が増えたことで、むしろ楽曲の人気が上がっている。ビルボード・ジャパンの7月24日付チャート「Hot100」では、Mrs.GREEN APPLEの楽曲が、100位以内に12曲もランクインしているほどだ。
Mrs.GREEN APPLEは日本レコード大賞を受賞した2023年よりも、ヒットチャートをジャックしている現在の方が勢いがある。客観的に「今、最も売れている」といえる、絶好調のバンドなのである。
それでも参加見送りとなったのは、恐らく「Mrs.GREEN APPLEのような差別的なミュージックビデオをつくるバンドを出すな」という、一部のポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)に敏感な人からの苦情が、しつこく寄せられていたからだろう。
とはいえ、2023年のキャンペーンソング『Magic』のミュージックビデオにはどこにも差別性がなかったし、筆者には自由や平和をテーマにした癒される曲にしか聞こえなかった。他の曲のミュージックビデオもしっかり検証すれば、彼らがどんな人たちか、輪郭がつかめてくるはずだ。
日本コカ・コーラが企業イメージを守りたい気持ちは分かるが、日本企業よりもよっぽどポリコレに詳しい外資系企業なのだから、ミュージックビデオを公開前にしっかりチェックしていれば「一発アウト」としてMrs.GREEN APPLEのファンを泣かす事態には、発展しなかったのではないだろうか。
だいたい、ポリコレは法令違反とは異なる。明確にアウトと分かりにくい部分があるからこそ、コロンブスのような評価の分かれる歴史的人物をCMやミュージックビデオで扱う場合、史学の専門家に監修をしてもらった方が、ベターだったのは事実だ。
Mrs.GREEN APPLEとしては、コロンブスのアメリカ大陸発見を称賛するというよりも「コロンブスの卵」の逸話について伝えたかったように見受けられる。人によって、もっと別の解釈はあるのかもしれないが、ミュージックビデオを抜きに曲だけ聴くと、コロンブスの卵のように、物事を打開するには発想の転換が大事だというメッセージを伝えたいように感じる。大のコカ・コーラファンの大森氏にしてみれば、発想の転換を促してくれるスペシャルな炭酸飲料がコカ・コーラだ、というようなCMソングに仕立てたのだろう。
日本コカ・コーラは決定が二転三転するという批判を甘んじて受けてでも、Mrs.GREEN APPLEをキャンペーンに復帰させるべきではないか、あらためてそう思う。
著者プロフィール
長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。著書に『なぜ駅弁がスーパーで売れるのか?』(交通新聞社新書)など。
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