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「IT多重下請け」が生まれた背景 フリーランスを守る、共同受注の強みとは?(2/2 ページ)

フリーランスのITエンジニアと企業をつなぐエージェント事業を手掛ける1989年創業のPE-BANK(東京・港)の髙田幹也社長に、多重下請け構造が発生した背景や生成AIとエンジニアの関係について聞いた。

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AIが与える影響は?

 プログラミングコードを書ける生成AIも登場した。その観点ではフリーランスのITエンジニアにとっては、職を失いかねないマイナス要因に見える。

 「正直なところ、生成AIが今後、どのくらいの影響を与えるのかは分かりません。ただ、何か新しいものを生み出す時、あくまでもAIはそのサポート役だと思います。そのサポートのおかげで開発が速くなって、新サービスもどんどん生まれ、生産性が上がっていきます。現段階では、大手企業にPE-BANKの技術者が行って、社員の人たちと一緒に新しいサービスを作る段階なのだと思いますので、何とも言い難いです」

 AIによって「実際に生産性が上がる」という実感を伴った製品が世に広まらないと、どのような影響が出るのかを見極めるのは難しいようだ。

稼働中のエンジニア8割が適格請求書発行事業者に

 フリーランスという立場で最近、大きなトピックだったのはインボイス制度だ。

 「かなり意識していまして、2023年の頭ぐらいからインボイス制度についてのセミナーを徹底的にやりました」

 PE-BANKの登録者で実際に稼働しているエンジニアは現在約2500人。その8割が適格請求書発行事業者になってくれたという。「想像以上の数字です。みなさん、税金を払おうという思いがあり、プロ意識が強いのだと思います」。

 エンジニアに代わり、消費税分を支払う仲介業者もいる。だが裏を返せば、それをできるだけの財力があるということだ。うがった見方になるかもしれないものの、それなりのピンハネをしてきたと表明しているようにも見えなくもない。

 髙田社長は「私たちは無理です。会社がつぶれてしまいます」と苦笑いした。発注側であれ、仲介業者であれ、消費税分はできることなら払いたくないのが本音だ。適格請求書発行事業者になった人が多ければ、元請けが発注しやすくなることは間違いない。「8割という数字は今後、大きな強みになります」。

賃上げの風潮を作れるか?

 日本の平均給与を上回るフリーランスのITエンジニア。その所得をうらやむ労働者もいるかもしれない。だが本質的には、日本の経営者がいかに賃上げを渋ってきたかを問題視すべきだ。

 事実ITエンジニアがいなければPCもスマホも、インターネットも、ゲームも、ATMも動かない。つまりエンジニアに対して、もっと報酬という形で報いるべきなのだ。だが現実には、建築やアニメ・マンガ業界と同様に、多重下請け構造の影響によって、能力に見合った所得を支払ってこなかった。

 賃上げを促すことによって経済を回そうという風潮が、日本企業の中でも高まってきている。個々の企業が賃上げを実現できれば、日本全体で賃上げの機運も高められる。立場の弱いフリーランスへの報酬もまた然りで、彼らの地位も上向くだろう。

 そのスパイラルは、回り回って経営者にとっても「好ましい循環」になるはずだ。

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