なぜ、ERPを導入したのに「紙や手作業が残る」のか──経理現場に必要なモノ:シン・経理組織への道(2/2 ページ)
多くの企業の経理部門が会計システムとしてERPを導入していますが、今なおExcelを多用した手作業への依存度は高く、決算期間中の長時間残業も解消されたとは言えません。その対策を考えます。
決算業務のマニュアルワークは、なぜなくならないか
財務諸表の勘定残高が正しいことを検証するために、決算業務では会計データ以外に社内の他システムのデータやExcelで管理しているデータ、取引先からの各種証憑や銀行口座の残高情報など、さまざまな情報を参照する必要があります。
さらに、勘定残高の正しさを確認したという事実と正しいと判断した根拠(間違っていた場合は修正した内容とその根拠)を、監査の際に参照できる形で記録する必要があります。こうした業務処理の多くはERPの外で行われます。
ERPは複数元帳などIFRSや日本の会計基準のコンバージェンスに対して有用な機能を持ち、法規制の改正に対しては新機能のリリースや対応した利用方法のガイダンスなど、ルールにのっとった会計帳簿を効率的に作成する上で有効なシステムです。
しかし、決算業務のようにERP外のデータを取り込んで比較・検証や、業務のログや関連文書、検証や調査の顛末を管理するような処理には向いていません。決算プロセスにおいては正規化された会計データを提供するところまでがERPの役割となります。日本CFO協会が2021年に実施したサーベイでも、こうしたERPの外で行われる業務や処理に対するデジタル化のニーズの高さを示す結果が出ています。
ERPを補完する決算プラットフォーム
こうしたERPでは対応が難しい処理をデジタル化するソリューションとして開発されたのが「決算プラットフォーム」です。決算業務を中心に可視化、標準化、自動化、統制強化することによって経理業務の大幅な効率化とガバナンス強化を実現します。経理部員一人一人に、より付加価値の高い業務に集中できる環境を提供することを目的に、ERPを補完するソリューションとして欧米企業で広く利用されています。
決算プラットフォームは、ERPの周りに残るマニュアルワークを抜本的に解消するために下図のような機能を備えており、大きく3つの特徴があります。
(1)ERPや会計システムと組み合わせて使う
決算プラットフォーム自体は会計システムではなく、ERPや会計システムと組み合わせて使用するものです。既存のシステムに大きく手を入れることなく、経理業務を標準化できます。組み合わせるERPの種類は問いません。
(2)経理業務に特化し、部分的な導入も可能
汎用の自動化ツールやタスク管理ツールと異なり、経理業務を想定した画面や項目、機能やプロセスなどがあらかじめ用意されています。また、導入する機能(モジュール)や適用する業務を限定して導入できるため、短期間で導入し、早期に成果を上げることが可能です。
(3)経理ユーザー自身がマスターやルールをメンテナンスできる
ERPや会計システムとのデータ連携の部分ではIT部門のサポートが必要ですが、マスターやルールの設定内容の変更や導入会社の追加などは経理ユーザー自身が対応できるように開発されています。これにより、ルールの変更や業務改善のアイデアを迅速かつ低コストでシステムに反映できます。
「小さく始める」ために導入を2つのフェーズに分けたA社の事例
大手消費財メーカーA社の経理組織では、EVA(R)導入やSAP ERP導入、IFRS適用などの革新を積極的に続けてきた一方で、決算業務や請求書払いには手作業や紙での処理が多く残されていました。コロナ禍でテレワークの推進も急務となり、決算プラットフォームを導入し、決算業務のデジタル化を推進しました。
プロジェクトの方針としてSmall Start&Quick Win(小さく始めて、早期に成果を上げる)を掲げ、導入プロジェクトを2つのフェーズに分けました。
第1フェーズでは期間を3カ月と定め、ユーザー数も絞り、本社の決算業務の可視化と一元化、一部業務の自動化をゴールに定めました。
第2フェーズでは6カ月のプロジェクトで機能拡張と適用業務の拡大、グループ展開を行い、経理組織のリモートワーク90%(当時)と、脱ハンコによる紙印刷の100%削減を実現しました。
その後もシステムに対する習熟度を高め、適用業務を拡大し、さらなる業務の標準化と自動化を推進しています。
グループ間で複数の会計システムがあり、業務の標準化が進みづらかった事例
大手ハイテクメーカーB社ではシェアードサービス会社を立ち上げ、グループのコーポレート機能を集約し、プロセス改革とオペレーションの高度化の実現を目指しました。
しかし、グループに会計システムが複数存在し、ペーパーレス化の進捗の遅れなどもあり、思うようには経理業務の標準化が進みませんでした。そこで、決算プラットフォームを導入し、既存の複数の会計システムと組み合わせて利用することで、業務の標準化を推進し、シェアードサービスの効率化と統制強化を図りました。
プロジェクトの最初のフェーズでは業務の可視化と標準化に注力し、新システムによる業務が定着し、一定の成果を得られた後に自動化による業務の効率化に着手しました。
シェアードサービス会社として標準化を加速させるためには、各社の経理業務を集約しただけの会社軸の体制から、債権債務管理や決算業務といった機能軸の体制に移行し、どの会社の業務オペレーションも分担できるようにする必要がありました。また、さまざまな企業規模や業態のグループ会社がある中、自動化で大きな効果を出すためには標準化は不可欠でした。そのため、新しい業務プロセスを定着させることを優先し、今回のようなプロジェクトの進め方を選びました。
はじめに標準化を進めた結果、その後の自動化のフェーズでは、仕訳入力や売掛金の入金消込業務など、年間で7000時間を超える大幅な業務効率化を見込んでいます。
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