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紅麹で揺れる小林製薬からやっと出た「調査報告書」 遅すぎる対応から見る3つの問題(2/4 ページ)

紅麹関連の商品で死者を出して大きな問題となった小林製薬が、ようやく調査報告書を発表した。今回は同報告書から、同社の問題点を明らかにしていく。

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 同社の紅麹ビジネスは、繊維メーカーで平成期以降健康領域にビジネスを広げてきたグンゼから2016年に譲渡されたもので、自社開発ビジネスではありません。グンゼではBtoB向け限定で事業展開していたものを、小林製薬は独自判断でBtoCへと展開し、機能性食品販売に乗り出したという経緯が分かりました。

 さらに、 海外の法規制から台湾向け輸出用の紅麹原料については、出荷検査の際に紅麹に付随発生の可能性がある有害物質シトリニンの含有の有無を確認していたものの、規制のない国内向けについては出荷検査していませんでした。そして、年に一度既知のカビ毒検査の一環としてシトリニンの含有の有無を確認していたのみであった、との報告も記載されているのです。

 これらの記載からは、医薬衛生事業をなりわいとする企業として、事業への姿勢が甘いのではないかと思われます。小林製薬の創業は雑貨販売業であり、姿勢の甘さはその後も長らく衛生関連製品の卸販売を主業としてきたことにあるようにも思います。製薬会社を名乗りながらも、第1類医薬品製品は2010年からの取り扱いで、かつその中身は他社OEM製品や買収先、提携先の開発製品がほとんどです。自社で、人の健康に資するような製品の製造・管理を行うにふさわしい企業資質や組織文化が成立していたのか、内情を知れば知るほど疑問符が浮かびます。

とにかく情報共有が遅く、第三者のガバナンスが効いていなかった

 2つ目の問題点である企業としてのガバナンスも見ていきましょう。報告書にある問題発生後の社内対応を見るに、小林製薬はガバナンス不全が著しいと思えます。まず何より、1月15日以降に複数の医師や消費者から小林製薬に、同社の紅麹サプリを摂取した利用者が腎機能障害などの体調不良を訴えているという情報が寄せられていながら、国および保健所への報告が2カ月以上も後の3月22日であった点です。利用者の健康リスクに対する危機管理の観点から、あまりにもずさんであるといわざるを得ません。

 報告書によれば、社内で安全管理部門に情報が上がったのは、3件の症例が確認できた後の2月1日でした。役員レベルに報告があったのは、同6日の小林章浩社長と安全管理部門との個別ミーティングが初めてで、正式に役員に対して情報共有があったのは同13日の常勤役員の会議であったといいます。さらに重要なことは、13日の段階で常勤監査役2人の耳には届いていたものの、社外取締役には報告がされていないことです。驚くことに、社外取締役への報告は3月20日までなかったというのです。

 本件発生の重要性を鑑みれば、遅くとも3件の症例が発覚した2月1日の段階で、トップを含む全役員に情報共有するべきだったでしょう。そして、仮にトップが決断をしなくとも、監査役あるいは社外取締役という経営から独立した立場から、当局への速やかな報告と製品の販売停止および回収を進言することが、ガバナンスが機能している企業においてはなされてしかるべき手順であったと思います。

 さらに、報告書にある一連の役員関連対応で特に問題視すべきは、常勤監査役の職務怠慢や、社外取締役の役割に関する認識の欠如です。常勤監査役は会計監査だけでなく、業務監査の立場から経営を監視すべき役割を担っています。事実を知った段階で、最低でも社外取締役に速やかに報告するだけでなく、全役員で対応方針を協議せよと進言すべきだったといえます。すなわち、同社では社外取締役に関して役員の誰もがその役割を理解していなかったため、経営を監視すべき社外取締役が蚊帳の外に置かれ、ガバナンス不全の状況にあったといえるのです。

 社外取締役も、十分に機能を果たしていたとは思えません。社外取締役が3月20日に事の詳細を知って以降、外部の眼として事実関係の検証を担う立場にありながら、6月に調査対象の死者が76人に上っていたことの厚労省への報告漏れが明らかになり、同省はこれ以上看過ならぬと調査の直接管理に乗り出しています。同省の立ち入り後には、さらなる報告漏れが続々明らかになるなど、社外取締役の機能不全もまた明らかになっています。こうしてみると、同社のガバナンス体制は、ゼロからの再構築が必要です。

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