AI時代に淘汰される組織の特徴 今こそ“人間力”が求められるワケ:ガートナー デジタル・ワークプレース サミット2024
「ガートナー デジタル・ワークプレース サミット2024」の中から、生成AI活用に関するセッションの内容を3回にわたって紹介する。
「産業革命は実際に起こっている。これに対応できない企業は存亡の危機となる」。こう話すのは、調査会社ガートナーのアナリスト、亦賀忠明氏だ。生成AIが著しい進化を遂げる中、働き方やビジネスの在り方は大きな変化を迫られている。企業はこうした変化に、どのように対応していけばいいのか。AI共生時代に、経営者やリーダーに求められる能力とは――。
ガートナーは、未来の働き方や最新のビジネストレンドについてアナリストらが解説する「ガートナー デジタル・ワークプレース サミット2024」を開催。その中から、AI活用に関するセッションの内容を3回にわたって紹介する。
「業界の再定義」が求められる
「今日のテクノロジー革命で、企業は破壊される企業と破壊的な企業の2種類に分けられている。当社は、後者へと向かう世紀に一度の変革のただ中にある」
これは米金融会社JPモルガン・チェースが発した声明だ。同行は2022年の初頭、5万人のエンジニアを育成するために年間120億ドル、日本円で約1兆円を投資すると発表した。「最終的には、AIを活用した仮想アシスタントが銀行のあらゆる領域に統合され、顧客に価値を提供するようになる」との見通しを示し、進行する「産業革命」に備える。
同行だけではない。米半導体大手エヌビディアCEOのジェンスン・フアン氏は2024年6月、「次の産業革命が始まった」として「1兆ドル規模の従来のデータセンターをアクセラレーテッドコンピューティングに移行し、新しいタイプのデータセンター (AIファクトリー) を構築」すると発表した。
亦賀氏は、世界中の有名企業がこぞって次なる産業革命への準備を進めていることを示し、世界は従来型の仕事のやり方で通った「江戸時代」から、新しい仕事のやり方を求められる「New World」へと「確実に進行している」と指摘する。
New Worldでは、「ある業務にデジタルを活用する」という方法は衰退し、「デジタルが前提のビジネス」という在り方が一般化しする。デジタル小売業、デジタル製造業……といった「業態の再定義」が経営者には求められるという。
AI共生時代に求められる「人間力」
飲食店に行くと、配膳ロボットが人間に代わって料理を届ける姿は、すっかり見慣れた光景となった。亦賀氏は、こうした事例を挙げて、AIとの共生時代は「すでに始まっている」と説明する。しかし、現在のAIの進化はまだ「1合目」とも呼べる初歩的な段階で「今後、AIは想像を絶するレベルで賢くなる」と指摘する。
人間にとっては一見、AIに仕事を奪われる危機的な状況のようにも映るが、亦賀氏はそうは捉えず「AIとの共生時代にこそ大事なのは人間力」だと強調する。「機械にできることは機械にやらせる。AIは人間力を取り戻すきっかけになる。それによって、産業革命を実現する新たなエンジニアリング能力を獲得する」
人間力、つまり「考えること」がAIに対する人間の強みだと亦賀氏は指摘する。例えば、コールセンターのオペレーター業務のような「人間の機械化」「マニュアル化」とも呼べる業務は、AIの前では太刀打ちできない。しがらみやしきたりに縛られ、従来のやり方を変えようとしない「考えさせない組織」は、今後、AIに職を奪われるという。
一方で、時代に合った個々のリテラシーやスキルを獲得し、常に変化し学び続けようとする「考える組織」はAI共生時代にも生き残るという。
亦賀氏は「考えさせない組織から、考える組織へと変革することが、今後マネジャーに求められる能力となる」と説明する。
亦賀氏は最後に、組織にこうした変革をもたらすためには「認識の共有化」が何よりも重要だと指摘。「産業革命がすでに起きていることを認識し、組織内で共有化することが変革への第一歩」だと強調した。
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