書面の監査業務「25→12時間」に半減 生成AI、旭化成の活用策は?:生成AI 動き始めた企業たち(1/3 ページ)
連載「生成AI 動き始めた企業たち」第18回は、旭化成の取り組みを紹介する。各事業分野に特化した独自のAIモデルの構築を目指すという同社。どのような価値観のもと、生成AI活用を進めているのか。
連載:生成AI 動き始めた企業たち
生成AIがビジネスを大きく変えようとしている。従来のルールを覆す「ゲームチェンジャー」となり得る新技術に、企業はどう向き合うのか。生成AIの独自開発・活用に名乗りを上げた企業に構想を聞く。
これまでの掲載
日本IBM、サイバーエージェント、日立製作所、富士通、NEC、パナソニック コネクト
NTTデータ、情報通信研究機構(NICT)、三菱電機、村田製作所、JR西日本
アサヒビール、九州電力、住友生命保険、住友化学、名古屋鉄道、ライオン
今後の掲載予定
- 旭化成(本記事)
- メルカリ
- 明治 ※順不同
連載「生成AI 動き始めた企業たち」第18回は、旭化成の取り組みを紹介する。同社は2023年6月に全従業員が公開情報のみ利用できる生成AIシステムを業務導入。同8月には外部に公開していない社内データも検索・回答できるようにした。
ある事業部の製造現場では、顧客と監査のやりとりを書面で行う業務が、1件あたり25時間から12時間に短縮されるなどの効果も生まれたという。
長期的には材料化学や住宅、医療など各事業分野に特化した独自のAIモデルの構築を目指すという同社。どのような価値観のもと、生成AI活用を進めているのか。回答はデジタル共創本部インフォマテイクス推進センター 生成AI・言語解析ユニット長の大熊智子氏。
ビジネスへの影響 | 自社の強み | 競争優位性 | リスクと対処法 | ルール整備 | |
---|---|---|---|---|---|
三菱電機 | 専門知識がなくてもAIと対話しながら機器を操作できるようになる | さまざまな分野の現場データや機器の知見を生かしたAI技術を保有 | コンパクトな言語モデルで生成AIを活用する際の実用性と安全性を高める | 機密漏えい、権利侵害、輸出管理違反、虚偽情報などを対処 | 自社の生成AI利用環境やガイドラインを整備済み |
村田製作所 | ルーティン業務の自動化でアウトプットに集中できる | データの活用におけるAI利用に強み | 過去からのAI活用に関するノウハウ蓄積が競争力に | 「守り」「攻め」の2つのリスクを見る必要がある | 利用規則で制限を設けている |
JR西日本 | さらなる生産性向上に期待 | 通話要約の業務で18〜54%の効率化を実現 | 人と生成AI両輪で事業を展開 | 個人データを機械学習に利用しないことが必須 | ルールブックを作成し対応者全員に研修 |
アサヒビール | 人がより創造的な活動に従事できる | 文量の多い技術資料を要約できる | 早期の試行で生成AIの適応範囲を理解 | 政府や業界の動向に注視が必要 | グループ会社で注意点などを共有 |
九州電力 | 業務の品質維持や高度化でより低廉で安定した電気を届けられる | これまで自社設備の保守・維持管理でAIを積極活用 | 自社にとっての最適ツール・活用法を検討 | 情報セキュリティ対策の徹底が必要 | 生成AI利用のガイドラインや解説動画を作成 |
住友生命保険 | 自身では思いつかないアイデアを得られる | 顧客から得たデータを価値に換え還元する「顧客価値増大モデル」に強み | ウェルビーイングサービス領域でトップを目指す | 国の方針も踏まえ社内規定を見直しリスク抑制を図る | ガイドラインの作成・運用や勉強会による啓蒙活動も実施 |
住友化学 | 従来の暗黙知を共有知化し新しいビジネス価値を創出 | 独自生成AI「ChatSCC」を導入し最大50%以上の効率化を確認 | 独自のコア技術を活用したビジネス展開や競争力の確保を目指す | 社内データを情報源として回答生成する仕組みを設けハルシネーション低減を検討 | 独自のプロンプト集や指示文書作成テクニックの動画を社員に公開 |
名古屋鉄道 | 生成AIを第2の自分として使うヒトが評価される社会に | AI画像解析で踏切事故の未然防止を推進 | 鉄道現業部門や顧客向けサービスでも生成AI活用を検討 | セキュリティ教育、リスク対策を継続して実施 | 「入力情報」と「生成物」の2点をポイントにガイドラインを整備 |
ライオン | ビジネス効率化や従業員のスキルアップに貢献 | 「知識伝承のAI化」ツールが技術の属人化を解消 | 先端技術の積極的活用と人材育成 | 適切な利用範囲を明確にしたガイドライン発行などが必要 | 生成AIの適切な活用を支援するコミュニティ運営などを実施 |
旭化成 | 生成AIはDXの「X」の部分を加速する強力なツール | 全社員が対象の人材育成プログラム「旭化成DX オープンバッジ」を実施 | 各事業分野に特化した独自のAIモデルの構築を目指す | 生成AIを「使う」リスクと「使わない」リスクの両面に向き合う | リスクや留意事項をまとめ全社にガイドラインを発行し周知 |
各社の回答(要約) |
Q. 生成AIはビジネスと社会にどんな変化をもたらすか
DXにおいては、単なるデジタル化(D)ではなく、デジタル技術を使った変革(X)を行うことが最も重要です。生成AIはそのXの部分を加速する強力なツールの一つだと考えています。
当社では、23年5月に生成AI活用ガイドラインを制定し、6月には全従業員が安全な環境下で業務利用できる生成AIシステムを導入しました。また8月には、技術情報など外部に公開していない社内データも検索して回答できるよう、社内データとの連携を始めるなど、早くから業務への積極的な活用を進めてきました。
12月には現場のデジタル人材が自ら業務に適したシステムを開発できるような環境の提供を開始しました。生成AIはデジタルデータの利活用をさらに加速し、効率化だけでなく従業員のアウトプットの質の向上や組織の業務プロセスの変革を実現できる技術だと考えています。
ある事業部の製造現場では、書面による顧客監査対応業務を1件あたり25時間から12時間に短縮し、年間で約1820時間の短縮が実現できる見込みです。このケースでは、単に対応業務を自動化しただけではなく、過去のデータの活用により品質が向上することも確認できました。
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