システム導入で起きる“深刻な部門対立”どう解決? あの部署の効率化で、こっちの部署から不満噴出:ファイナンス組織「3つのジレンマ」とデジタル活用(3/3 ページ)
システム導入の際、現場では部門間の対立が起きてしまいやすい。利害対立を越えて、プロジェクトを推進していくためには何が必要なのだろうか。
プロセスオーナーの組織上の位置付け
これまで述べてきたように、プロセスオーナーは機能部門の利害から独立した立場で、全体最適の観点からエンドツーエンドプロセスを俯瞰し、業務プロセスをデザイン、モニタリング、メンテナンスする必要がある。となると、特定機能部門の指揮命令系統の中に組み込まれてしまっては、そうした動きは取りづらい。
プロセスオーナーは組織上、どのように位置付けるべきか。大きく3つの方法がある。
1つ目は、COO(Chief Operating Officer)、CFO(Chief Financial Officer)などの直下にプロセスオーナー統括組織を置き、その中に各エンドツーエンドプロセスを担当するプロセスオーナーを配置する方法である。
この際に重要なのは、プロセスオーナー統括組織の後ろ盾として、COOやCFOなどの強力な権限者が存在するという点である。これによりプロセスオーナーと各機能部門の間に健全な緊張関係、相互けん制が成り立つ。
2つ目は、シェアドサービスセンター、CoE(Center of Excellence)などの業務集約組織にプロセスオーナーを配置する方法である。
この方法には、プロセスオーナーとオペレーション実行部隊の一部が近いこと、重点KPIとサービス品質目標をSLA(Service Level Agreement)としてサービス受益者と合意するという営みに慣れていることなどの利点がある。
一方で、こうした業務集約組織の役割を、従来のコスト削減を目的とした単純作業の寄せ集め組織から、全社オペレーションの変革エンジンへと一段高いレベルに再設定し、その新たな位置付けに対して全社で共通認識を持つことが極めて重要となる。
最後に、各機能部門から選抜されたメンバーによるバーチャルチーム(CFT: Cross Functional Team)で、集団でプロセスオーナーの役割を担う方法である。
具体的には、基幹システム刷新の前工程として業務変革、新業務設計を行う際に、最初からプロセスオーナー組織を立ち上げることが困難である場合が多く、プロジェクトチームとしてプロセスオーナーの役割を代替するケースが該当する。この進め方であれば、プロジェクト活動を通じて、次世代のプロセスオーナーをCFTの中から選抜、育成できるという大きな利点も存在する。
しかしながら各部門から選抜されたメンバーはどうしても部門にひも付けられてしまうため、プロジェクトとして合意した部門横串の最適解と、選抜元の所属部門の利害との板挟みになることが非常に多い。プロジェクトと各機能部門の間のコミュニケーションルールの整備など、入念なプロジェクト運営準備が求められる。
プロセスオーナーの不在が招く重篤なリスク
筆者はこれまで多くのグローバル企業を接してきたが、特に欧米に本拠地を置く企業には当たり前のようにプロセスオーナーが存在する。一方でプロセスオーナーが不在にもかかわらず高い競争力を保ってきた日本企業の特殊性は、何によって成立しているのだろうか。
新卒一括採用、終身雇用により、文化的背景など同質な人材が長く同一企業にとどまる背景の中で、ジョブ・ローテーションが頻繁に行われることで隣の部門の業務内容も熟知している。また、他部門の主要メンバーが同期入社組で人的信頼関係がある。こうした土壌の上で、自然発生的に部門間の調整や協業・同調が成立してきたことが、結果としてプロセスオーナーの必要性が認識されてこなかった理由ではなかろうか。
しかしながら、国内労働人口の減少や若者を中心とした就業意識の変化により、こうした前提条件はすでに崩れはじめている。また昨今、ジョブ型人材という概念がもてはやされているが、プロセスオーナー不在、かつ自然発生的な部門間の同調が失われつつある中で、Job Description(担当職務の定義)に閉じたジョブ型人材ばかりが集まってしまうと、日本企業の競争力に重篤なダメージを与える結果にならないか、危惧している。
今回はレジリエントなオペレーティングモデルを構築するに当たり、主に組織や役割の観点から論述した。次回はよりデジタルの活用に焦点を当てたテーマとなる。
著者紹介:山岡正房
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社ファイナンスパートナー
2014年に入社後、クライアント企業のCFO部門向けに制度対応から業務プロセス改革、組織体制の見直し、グループ経営管理の強化、デジタルの活用など、さまざまな変革支援をリード。近年はファイナンスDXおよびトレジャリー領域にフォーカスし、関連プロジェクトの責任者を務めると共に、新たなコンセプトやソリューションの開発に取り組む。
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