米アマゾン週5出勤の衝撃 出社回帰でテレワークはどこへ?:働き方の見取り図(2/3 ページ)
コロナ禍でテレワークが推進されたにもかかわらず、出社回帰の動きが鮮明となっている。日本生産性本部が発表したテレワーク実施率は、2024年7月時点で16.3%。2020年5月調査時の31.5%と比較すると半分程度の数字にとどまっている。半数近くが出社に回帰した状況を、どう受け止めればよいのか。
出社回帰のデメリット
一方、出社回帰にはデメリットもあります。大きく3点挙げます。1つは、在宅勤務していた人に通勤時間というロスタイムを再び発生させることです。以前書いた「年間の通勤時間は休日20日分に相当 テレワークが生んだ3つの課題」でも指摘しましたが、仮に毎日の通勤時間が往復2時間だとすると、ひと月に20日働くとして40時間のロスが生まれます。
在宅勤務だと、この40時間は自由に使える時間です。12カ月分を足して年換算すれば20日分の休みに相当します。在宅勤務者にとって出社回帰要請は、年20日分の休日を放棄するよう迫るのと同じ意味を持つことになるのです。
また、副業が推奨されつつある中、自由に使える月40時間を別の仕事に充てれば収入を得ることもできます。2024年度の最低賃金は全国平均で1055円。仮にこの金額を当てはめると、月に40時間×1055円=4万2200円の収入を得られる計算になります。年額換算すると50万6400円。これらの権利が失われてしまうことになれば、モチベーションがダウンしたり、退職理由になったりしても不思議ではないほど重いと感じます。
次に、企業にとって、採用時に不利が生じます。テレワークか出社かを自由に選べる環境と原則出社の職場環境では、より柔軟性が高い前者が働き手から人気です。出社回帰に向かうと、相対的に働き手から選ばれづらくなります。人気企業であれば大した影響はないかもしれませんが、人手不足が慢性化しているだけに、出社回帰してあえてハンデを背負うことは事業運営上マイナスにはなっても、プラスになることは考えにくいでしょう。
3つ目は、ワークライフバランスがとりづらくなることです。結婚や出産などで女性は仕事と家庭の両立に悩むことが増えますが、性別役割分業に対する意識変化が進みつつある中、同じ悩みを男性も持つようになってきています。
厚生労働省の「令和5年度雇用均等基本調査」によると、男性の育休取得率は急激に上昇して3割を超えました。また、内閣府の「男女共同参画白書」によると、妻が64歳以下の共働き世帯の数は年々上昇を続け、令和5年には専業主婦世帯のほぼ3倍になっています。
共働きの増加に伴い、性別を問わず誰もが家事などの家仕事に取り組む“1億総しゅふ化”が進むと、仕事と家庭の両立はあらゆる働き手の課題として認識されるようになります。その傾向が進めば進むほど、ワークライフバランスがとりづらい出社回帰は働き手にとってデメリットです。
しかしながら、出社回帰がもたらすこれらのデメリットは、それほど深刻なものではありません。なぜなら、いざとなればテレワーク回帰も選択できるからです。例えば台風などで出社が困難な時は、在宅勤務に切り替えることができます。再びコロナ禍のようなパンデミックが起きても、生産性が下がるケースはあるかもしれませんが、事業を存続させることはできます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
勢いづく出社回帰 テレワークは消えゆく運命なのか?
出社回帰する企業が増えている。日常の景色がコロナ前とほとんど見分けがつかなくなっている中、テレワークは消えていくのか。
仕事は必要最低限 「静かな退職」に職場はどう向き合えばいいのか?
「24時間戦えますか」というキャッチコピーが流行語になった猛烈サラリーマン時代と対極に位置する「静かな退職」。そんなスタンスの働き手を、職場はどう受け止めればよいのか。
優秀だが昇進できない人 採用時と入社後の「評価のズレ」は、なぜ起こるのか?
「あの人は優秀だ」と誰もが認めるような人が、入社後、会社からあまり評価されないケースがある。採用時と入社後の評価のズレは、なぜ起こるのか。理由を辿っていくと、社員マネジメントにおける日本企業の課題が浮かび上がる。
ワーキングプア増加? 急拡大するスポットワークは、第2の日雇い派遣となるのか
タイミーの上場でも話題になったスポットワーク。かつて「ワーキングプアの温床」などと非難を受けた“日雇い派遣”との共通点も多いが、どのような課題があるのだろうか。
なぜ休日に業務連絡? 「つながらない権利」法制化の前に考えるべきこと
「つながらない権利」が近年、関心を集めている。業務時間外の連絡対応の拒否を求める声が高まっている。法制化して職場とのつながりを一切遮断すれば解決するかというと、問題はそう一筋縄では行かない。「つながらない権利」問題の本質とは――。
