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「投資家と正しく話せる企業」は“時価総額向上”につながる 対話のポイント3つ投資家ウケする人的資本開示(2/2 ページ)

「企業と投資家との対話」の重要性が見直されています。ある調査では、時価総額の向上につながることが明らかになりました。しかしながら、多くの企業は表層的・形式的な対話しかできていないのが現状のようです。投資判断を促せるような対話には、3つのポイントがあります。

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企業が投資家との対話に消極的な理由

 投資家が企業との対話を求めている一方で、投資家との対話に踏み出せていない企業も多くあります。東証が2023年3月に発行した資料「株主との対話の推進と開示について」 においても「企業側では依然として対話に消極的な姿勢が見られる」という指摘があります。

 企業が投資家との対話に消極的な理由にはさまざまなことが考えられますが、日本企業が「投資家がどの情報を必要としているかを把握できていないこと」「長期的な成長戦略を描けていないこと」が大きな原因の一つでしょう。

 まず、投資家が対話を求めるのは、より的確な投資判断を下すためです。投資家は、企業との対話から「この会社はどのような成長戦略を描いており、将来どのくらいのリターンをもたらしてくれるのか」ということを推し量ろうとしています。こうした投資家の要請に対し、明確な長期戦略を持って回答できる企業は少ないでしょう。それゆえ、投資家との対話に消極的になっているように見受けられます。

 では、なぜ日本企業は長期的な成長戦略を描けていないのでしょうか。その要因の一つに、経営者の任期が短いことが挙げられます。日本企業におけるCEOの平均任期は4〜6年が最多と、任期10年以上が多い米国企業と比べても明らかに短いです。

 経営者はたった数年の任期で、果たしてどれほどの変革を起こせるでしょうか。また、中期経営計画は日本企業が任意で開示している独特のものですが、多くの企業が3〜5年程度のスパンで作成しています。10年先、20年先を見据えた長期戦略を描けている企業は少ないのが現状です。

 これからの時代、投資家に選ばれるためには、10年、20年という長期視点で「どのような未来をつくりたいのか」という目指す姿を描かなければなりません。そして、目指す姿を実現するための綿密な長期戦略を立て、その長期戦略をベースに投資家と対話を進めていくことが重要です。

良い対話の3つのポイント

 企業と投資家の「良い対話」のポイントを以下の3点に整理しました。

ポイント(1)言いたいことだけを伝えるのではなく、関係構築のための言葉を交わすこと

 株主総会や決算説明会は投資家との対話の場ですが、フレームに沿った資料を提示し、発信するだけで終わってしまう企業が少なくありません。時間の限られたパブリックな場であることから、どうしても一方的かつ形式的な発信に終始しがちですが、これでは投資家の納得度を高めることはできません。

 投資家との対話では「受発信」の意識が不可欠です。一方的に言いたいことだけを伝えるのではなく、双方向で体温のあるコミュニケーションを交わすことができなければ、投資家の期待を獲得するのは難しいでしょう。株主総会や決算説明会では制約が多いということであれば、1on1ミーティングやスモールミーティングを開催することをおすすめします。

 「想定外の質問が来たらどのように答えたらよいのか」といった懸念があるかもしれませんが、現状できていないことは「できていない」、答えられないことは「答えられない」と、正直に伝えることも重要です。本音の対話こそが、投資家のエンゲージメントを高める第一歩になるはずです。

ポイント(2)自社を良く見せるためではなく、自社がより良くなるために意見を交換すること

 投資家にネガティブな印象を持たれたくないという思いから、自社にとって都合の悪いことは伏せておき、投資家ウケが良いことばかりを発信する企業も目立ちますが、投資家は「良いことばかりではない」ことは百も承知です。これでは逆に、「さまざまなことを隠しているのではないか」と不信感を持たれてしまいます。

 投資家は、ポジティブなことを聞きたいのではなく、正しく現状を把握するための「課題」と、これからより良くなるための「解決策」を聞きたいのです。投資家との対話では自社を良く見せるのではなく、ありのままをさらけ出し、今後より良くなるための建設的な意見交換をするべきです。

ポイント(3)一度の対話で完結するものではなく、中長期的に共感を得続けること

 「取りあえず年に一度、対話の場を設けておこう」と考えている企業もあるかもしれません。ですが、一度きりの対話で投資家のエンゲージメントが高まることはないでしょう。

 企業の目的は、投資家に「長期的に投資し続けてもらうこと」であるはずです。当然のことですが、たった一度の対話で投資判断を促すのは無理なことです。投資家は常に複数の企業をウォッチし、比較検討しながら「この会社は成長するに違いない」という確信を持てた企業に資金を投じます。こうした確信を持ってもらうには、対話を重ね、中長期的に共感を醸成し続けていかなければなりません。

おわりに

 多くの企業が投資家との対話に慎重になっているのは、長期戦略を明確に描くことができていないからだと先述しました。

 実はもう一つ、大きな理由があると考えられます。それが、アクティビスト(物言う株主)への対応の懸念です。9月25日(水)掲載の次回は、「物言う株主」との向き合い方について解説します。

著者プロフィール

白藤大仁 株式会社リンクコーポレイトコミュニケーションズ代表取締役社長

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2006年、株式会社リンクアンドモチベーション入社。19年、株式会社リンクコーポレイトコミュニケーションズの代表取締役社長に就任。

「オンリーワンの、IRを。」をメインメッセージとし、企業のオンリーワン性を導き出すことで、IR活動や経営活動を支援する事業を展開。プライム企業を中心に、統合報告書の制作や決算説明会の配信支援など、IR領域で幅広いソリューションを提供している。23年より、特定非営利活動法人 日本IRプランナーズ協会 理事。 投資家との対談やメディアでの解説実績多数。


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