物言う株主を「けむたがる企業」に未来はない ピンチを“チャンスに変える対話”とは:投資家ウケする人的資本開示(2/2 ページ)
「投資家と正しく話せる企業」は、時価総額が上がる──このことに注目し、取り組みを強化する企業は増えています。物言う株主との向き合い方や、株主提案がなされたときに、どのように企業成長というチャンスにつなげるべきかを解説します。
昨今では、社外取締役や投資家との対話の場を設ける企業も増えています。以下では三井物産と三井化学の例をご紹介します。
三井物産:インベスターデイで「人材マネジメント」についてディスカッション
三井物産では、インベスターデイを設けて、経営陣と社外取締役が対談を行っています。
「インベスターデイ2023」では、社外役員パネルディスカッションを開催し「人材マネジメント」をテーマに、同社の人材戦略の特徴や課題、D&Iの進捗(ちょく)、女性社員が活躍できる職場づくりに必要なポイント、企業価値向上に対する人材戦略やD&Iの関連性などを話し合いました。
三井化学:機関投資家のスモールミーティング
三井化学では、ステークホルダーとの対話を深めるため、社外取締役と機関投資家のスモールミーティングを行い、対話の模様を統合報告書で紹介しています。
スモールミーティングでは、対面およびオンラインで参加者からの質問に答えながら、社外取締役のミッションや長期経営計画「VISION 2030」の戦略、三井化学グループの未来などについて語りました。なお、参加した機関投資家は21社26人でした。
アクティビストとの対話事例
次に、企業とアクティビストとの対話事例として、豊田自動織機、花王、オリンパスの3社を取り上げます。
豊田自動織機:社の方針を新たに提示し、株主提案は取り下げに
豊田自動織機は2024年5月、仏ファンドのロンシャン・SICAVから5000億円を上限とした自社株買い、資本効率改善に向けた取り組みの開示など、計3件の提案を受け取ったと発表しました。
それに対して、豊田自動織機は1年間で1800億円を上限とする自社株買いを実施する他、2027年3月期までの3年間の株主還元額を合計約7000億円とする方針を示しました。また、2024年3月期に4.6%だった自己資本利益率(ROE)を2027年3月期〜2028年3月期頃に6%に高め、中長期では8%を目指すという目標を設定しました。
その結果、これらの株主提案は取り下げられ、豊田自動織機は「企業価値向上への取り組みに対する方向性が評価された」とコメントしています。
花王:業績不振事業の縮小を求められ、株価が急騰
花王は、アクティビストとして知られる香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントから、化粧品とスキンケアブランドの国際的な成長に重点を置き、業績不振の事業を縮減するよう求められました。その結果、株価は急騰しました。
花王は、オアシス・マネジメントの主張に対し、2023年12月期決算で示した積極的なポートフォリオ管理や構造改革について十分な理解がなされていないという見解を示しました。
一方で、経営戦略に基づき長期的な視点で株主価値の向上に努めているとし「オアシスおよび全ての株主と直接かつ建設的に関わり、課題を解決するための新たな視点を歓迎する 」とコメントしています。
オリンパス:アクティビストの理解の深さを認め、社外取締役を受け入れる
2019年、オリンパスは米国の投資ファンド、バリューアクトから社外取締役を受け入れました。その理由を当時のCFOであった竹内康雄氏(現CEO)は「意見交換してみるとまともな投資家で、アクティビストも一様ではないと思い始めた」と振り返ります。バリューアクトは、オリンパスのことをよく調べ、理解も深く、独自の展望を持っていました。
また、短期的な利益ではなく長期的な視点で企業価値向上を目指すという姿勢でもオリンパスの考え方と一致していました。以降、赤字が続くデジタルカメラなどの映像事業を売却し、医療事業へと経営資源を集中させるなど、ともに中長期の企業価値向上に向けた取り組みを進めています。
おわりに
昨今、非財務情報の開示要請が高まっていますが、その確実性を担保する目的で、既に欧州で行われているように非財務情報を監査の対象とする必要性も議論され始めています。
このように非財務情報の開示要請が高まる中で、上場コストも高まっています。上場するとは「市場との対話に向き合う」ということに他なりません。
市場で競争力を発揮し続けるためには、対話に向き合うという覚悟が必要です。アクティビストに対する考え方をアップデートして、積極的な対話を重ねていくことが重要でしょう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
人的資本経営で「やりがちだが、無意味な取り組み」とは 伊藤レポート検討委メンバーが語る
有価証券報告書での開示義務化に伴い、注目度が高まる人的資本開示。多くの企業が「どうしたら、他社に見劣りしない開示ができるのか」と悩み、試行錯誤しているようだ。しかし、アステラス製薬の杉田勝好氏は、他社との比較を「意味がない」と断じる。
人的資本を「義務だから開示」した企業に欠けている視点──5年後には“大きな差”に
有価証券報告書でも開示が義務化され、ますます注目が集まる人的資本経営。しかし、目先の開示情報をそろえることに気を取られ、最も重要な人的資本向上のための対応が遅れている企業も目立つ。形式的な開示にとどまらず、人的資本経営で本質的に大事なこととは何か。
人的資本は状況が悪くても“あえて開示”すべき理由 「投資家の低評価」を恐れる企業の盲点
人的資本開示をするにあたって、現状を開示しても投資家にマイナス評価を付けられてしまうのではないか──。そんな不安を抱く担当者が多いようだ。できるだけ公開せずに他社の様子見に入るケースも少なくないが、投資家含む各ステークホルダーからの心証を悪化させかねない。どう対応すべきなのか。
「ISO30414取得」発表日には株価16%上昇──他にもあった「大きなメリット」とは 日本初の認定企業に聞く
人的資本の情報開示義務化を受け、多くの企業が開示を見越した取り組みを始めている。国外にも目を向けると、開示のための国際的なガイドライン「ISO30414」の認証を受けた企業が注目されている。認証を受けたことで、どのようなメリットがあったのか。また、どんなステップを踏んで認証に至ったのか?
