イオン「デジタル人材を2000人に」 どのように定義し、育てていくのか
イオンは「2025年までにデジタル人材を2000人にする」との目標を掲げている。デジタル人材の定義や育成方法を取材した。
イオンは9月18日、エクサウィザーズが開催したイベント「進化するDX人材育成の最前線」に登壇し、同社のデジタル人材育成に関する取り組みを発表した。
イオングループは売り上げ9.5兆円(2023年度)の規模を有する、巨大企業だ。約300の企業で構成され、従業員数は59万人を超える。コロナ禍を経て、イオンでもデジタル化の重要性が一層高まった。デジタル分野は企業の競争力を左右し得る。この力を、どうやって全社的に伸ばしていけばいいのか。
「2025年にはデジタル人材を2000人」との目標を掲げるイオングループは、デジタル人材をどのように定義し、どのような教育機会を提供しているのか。人材育成部 デジタル人材開発グループ リーダーの青野真也氏に話を聞いた。
デジタル人材を「6職種・3レベル」で定義 教育の成果は?
一言に「デジタル人材」と言っても、その役割は多岐にわたる。イオングループは経済産業省が定義した「デジタルスキル標準」(以下、DDS)に基づき、デジタル人材を定義した。
「プロダクトマネージャー」「デジタルマーケティング」「データサイエンティスト」「社内SE」「UI/UXデザイナー」「エンジニア/プログラマ」の6職種に分類し、3段階のレベル(「ジュニア」「ミドル」「ハイ」)をつけ、計18の区分を設けた。この定義に則り、グループ各社で不足している人材を採用・育成する方針を立てる。
定義に沿った育成カリキュラムを2022年中に作成し、2023年6月にデジタル人材育成プログラムの提供を開始した。公募制でイオングループの全従業員が受講可能であることが特徴だ。
初年度はジュニアと一部のミドルを対象にプログラムを実施した。受講中にデジタル関連の部署に異動する社員もいれば、卒業後にキャリアを見つめ直し部署異動する社員や、学びを持ち帰り自身の部署でデジタル化に励む社員もいるという。
「プログラムの最後の成果発表のテーマが『デジタルを活用した課題解決』でして、何らかの研究課題において仮説検証をした結果を発表してもらっています。現場課題のソリューションもあれば、お客さまをターゲットにしたものもありますし、所属する部署内のデジタル化もあります」
こちらのプログラムは運用開始から2〜3年ほどのため、「成果発表の内容を水平展開できるかというと、まだ時間はかかる」(青野氏)とのことだが、これまで展開してきた育成プログラムの卒業生の中には、デジタル関連事業の重要なポジションに就いている者もいるという。
「成果発表の内容は全従業員が自由に見られる状態になっています。これはまだ起こっていないですが、私としては成果発表を基に社内でヘッドハンティングなどが起こるといいなと思っています」
デジタル人材の認定方式としては、独自のスキルチェックシートを使用する。プログラムの受講者がセルフチェックを行い、上司やメンターがダブルチェックする形だ。特定のテストなどを受けるわけではなく、日々の業務の中で定義された役割を遂行できていればデジタル人材の認定を受けられる。
学びに貪欲であり続けてもらうためには? イオンの工夫
さまざまな学習の機会を提供していると言えど、学ぶのは従業員自身になる。学びに対する意欲を高め続けるために、どのような工夫をしているのか。
青野氏は「学ぶことに対するカルチャーはもともとあると思っています。と言うのも、登用試験のための勉強があるので、専門人材や専門職に対する学びを深めることにもそんなに違和感はないと思っています」と話す。
具体的には、オンライン講座の「イオンDXラボ」などを展開。社内外の有識者を招いたイベントで、イオングループの従業員は誰でも視聴できる。昨年は日本マイクロソフトやグーグルなどの講師が登壇し、生成AIのビジネスインパクトについて講演した。
これまでに延べ1万5000人の従業員が参加しており、ラボきっかけでデジタル人材育成に興味を持った従業員がプログラムに参加することもあるという。
もちろん、従業員の意欲に任せっきりにするのではなく、企業側からも働きかける。その一つとして、エクサウィザーズが提供する、DX人材発掘・育成サービス「exaBase DXアセスメント&ラーニング」の活用がある。
「DXに対する志向性とスキルに分けて測定できるため、『DXには向いているが、現状スキルが足りていない人材』や『ITスキルはあるけど、DXに意識が向いていないような人材』を発掘し、デジタル人材育成の場に送り出すという取り組みをしています」
これまでイオングループが提供してきたデジタル関連のプログラムに参加した人は数百人に上る。デジタル活用は急務だが、日々の業務に追われ、なかなか腰を据えて勉強に取り組める人は多くないだろう。会社に背中を押してもらえたことが、小さな一歩につながり、キャリアや会社を大きく変える未来を作るかもしれない。
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