住宅ローンで「2兆円目指す」 住信SBIネット銀はなぜ、大躍進しているのか?:進む「不動産DX」(2/2 ページ)
住宅ローン市場は、年間約20兆円の規模を誇る巨大マーケットだ。この中で、住信SBIネット銀行は急速に存在感を高めている。同行の住宅ローン実行額は、2023年度に1兆7000億円を記録。2024年度は2兆円を目指すという。躍進の理由を聞いた。
紙文化からの脱却を目指す住宅ローン手続きのDX
「かんたん住宅ローン」の導入により、住宅ローンの申し込みから実行までの時間が従来の半分程度に短縮されたケースもあるという。寺田氏は、効率性と顧客満足度の両方を高められていると手応えを語る。
すでに、同行の住宅ローン申し込みの約3割が「かんたん住宅ローン」を利用している。特に、銀行代理業者による利用が順調に拡大しているそうだ。住信SBIネット銀行には店舗型の銀行代理業者が現在20数社あり、そのうち16社が「かんたん住宅ローン」を導入している。
さらに、新規で銀行代理業を始めた事業者では、利用率が7〜8割に達しているケースもあるという。新規事業者にとっては、効率的な業務フローを一から構築できるメリットが大きい。今後の目標について、年度内には基本的に全ての取り扱いをこのプラットフォームに移行したいと意気込む。
導入1年で8割の利用率、今後は業界標準化も視野に
一方で、課題も残されている。寺田氏によれば、大手デベロッパーなど、独自のシステムを持つ事業者との連携にはまだ時間がかかっている。これらの事業者は、すでに複数の金融機関と連携可能な独自システムを運用しているケースが多く、新たなプラットフォームへの移行には慎重だ。
しかし、「現在、これらの事業者のシステムと『かんたん住宅ローン』を接続するための開発を進めている」と寺田氏は語る。将来的には、既存システムとの相互運用性を高めることで、より広範な採用を目指すという。
さらに「かんたん住宅ローン」を自社サービスにとどめず、業界標準のプラットフォームとして確立することも視野に入れている。寺田氏は、「将来的には他の金融機関も利用できるオープンなプラットフォームにしたいと考えている」と展望を語る。
「5年後、10年後の住宅ローン市場は、大きく様変わりしているはずだ」と寺田氏は語る。その未来図の中心にあるのが、「かんたん住宅ローン」に代表されるデジタルプラットフォームだ。
住信SBIネット銀行の挑戦は、単に自社の成長戦略にとどまらない。それは、長らく旧来型の手法が残存してきた不動産業界全体のDXを促進する触媒としての役割も担っている。住宅ローン市場全体のデジタル化を促進し、顧客、不動産事業者、金融機関の3者にとってより透明で効率的な環境を創出する可能性がある。
20兆円規模の住宅ローン市場で、テクノロジーを活用した変革の波が確実に広がりつつある。その中で、住信SBIネット銀行の挑戦は、どこまで業界の慣行を変え、顧客価値を向上させられるだろうか。
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