「とりあえず、やってみる」 創業130年、老舗の海苔会社がデジタル改革で得た“意外な成果”(2/2 ページ)
伝統産業の代表格ともいえる海苔製造の世界で、チャレンジを続ける企業がある。創業130年を誇る老舗の小善本店が推進する、大胆なデジタル化戦略とは。
SaaS導入がもたらした成果と新たな課題
小善本店が段階的に進めてきたSaaS導入は、具体的にどのような成果をもたらしたのか。最も顕著な変化は、業務効率の大幅な向上である。
「以前は営業の社員など、午後8時頃まで残っていた時代もあったんですが、今では皆、定時で帰っています」と小林氏は語る。残業時間の削減は、SaaS導入の直接的な効果だ。
freeeの導入により、会計業務の効率化も図られた。データ入力の手間が削減されただけでなく、リアルタイムでの財務状況把握が可能となり、経営判断のスピードアップにもつながっている。
また、kintoneを活用した内製システムにより、在庫管理や受発注業務が一元化され、データの集計や分析にかかる時間が大幅に短縮された。これにより、より戦略的な業務に時間を割くことが可能になったという。
SaaS導入は、業務効率化にとどまらず、社員の意識改革ももたらした。小林氏は次のように語る。「以前は『いつもの方法で』と言っていた社員が、今では『もっと効率的な方法はないか』と考えるようになりました」。130年の歴史を持つ企業文化が、デジタル化を通じて着実に変革されつつある。
グローバル展開を見据えた次なる挑戦
小善本店のSaaS活用は、国内業務の効率化に大きな成果をもたらした。しかし、同社の挑戦はここで終わりではない。次なる課題として浮上しているのが、グローバル展開に向けたシステム統合である。
「これからは海外がメインになっていく」と小林氏は語る。同社は既に韓国、中国、台湾に製造拠点を持ち、世界各国に製品を輸出している。しかし、海外拠点とのデータ連携はいまだ課題が山積みだ。
現状、海外子会社の管理は「Excel + 現地会計事務所」という組み合わせで行われている。「リアルタイムどころか、月次の締めですら遅れがちです」(小林氏)
この状況を打開するため、海外拠点を含めたシステム統合を検討している。しかし、その道のりは平坦(たん)ではない。
「言語の壁が大きいですね」と小林氏。特にアジア圏では、英語だけでなく現地語への対応が必要となる。「韓国の現地法人では、行ってチェックしようと思っても、使っているサービスのトップメニューすら何が書いてあるか分からない状況です」
さらに、各国の会計制度の違いや、データ形式の標準化など、技術的な課題も山積みだ。「SAPのようなグローバルに対応した大規模システムを導入する選択肢もあるが「われわれの規模では現実的ではありません」と小林氏は説明する。
そこで小林氏が注目しているのが、新たな海外拠点の設立計画だ。「新しい拠点では、ゼロから私が関われるので、うまくいけば他の拠点にも横展開していきたい」と意気込みを語る。この新拠点でのシステム構築に、小林氏は「取りあえずやってみる」精神を存分に発揮する構えだ。「現地の状況に合わせて柔軟に対応し、試行錯誤しながら最適な方法を見つけていきたい」という。
グローバル展開におけるシステム統合は、多くの中堅企業が直面する課題だ。老舗企業が、最新のテクノロジーを駆使してグローバル市場に挑む。その姿は、日本企業の新たな可能性を示唆している。小善本店の挑戦は、まだ始まったばかりだ。
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