生成AI「本部では使われているけど……」 みずほFGがぶち当たった、社内普及の壁(1/2 ページ)
みずほフィナンシャルグループは、生成AIツールの導入を進めている。だが、その利用率を見ると、本部と営業部店で顕著な差があるという。今後、どのように社内普及を進めようとしているのか? 推進役のキーマンが語った。
大手企業がSIerと協働し、ChatGPTなどの生成AIを自社内での活用に特化した形で導入する流れが進んでいる。中でもみずほフィナンシャルグループ(以下、みずほグループ)では、ソフトバンクと協働し、テキスト生成AIツール「Wiz Chat」を2023年6月に導入した。
Wiz Chatは「みずほ版ChatGPT」といえるものだ。国内の全社員に提供していて、これまで2023年11月にGPT-4、2024年4月にGPT-4 Turbo、そして8月にGPT-4oを導入し、4回のバージョンアップを重ねている。
だが、いかに最新の生成AIツールを導入したとしても、従業員に広く利用されなければ意味がない。そこで、同グループでは2024年4月に全社AI活用促進を担う「AIX推進室」を設置した。生成AIのアプリケーション開発などを手掛ける「内製開発ラボ体制」をAIX推進室内に構築し、グループ企業である、みずほ第一フィナンシャルテクノロジーやみずほリサーチ&テクノロジーズなどの専門人材と協同しながら開発をしている。
これらの取り組みは、同グループが推し進めるDXブランド「MIZUHO DX」の取り組みとしても位置付けている。みずほフィナンシャルグループではどのように社内生成AIを活用し、業務に役立てているのか。同グループデジタル企画部AIX推進室の齋藤悠士調査役が、ソフトバンク主催の「生成AIユーザーコミュニティイベント」で明かした。
「ただのチャットツール」で終わらせないための取り組みは?
みずほグループでは、2024年4月に「AI-CoE」を立ち上げた。CoEとは、Center of Excellenceの略であり、一般的に「中核的研究拠点」「卓越した研究拠点」とも訳される。同グループに限らず、世界中の各大手企業が設置を進めている取り組みだ。特定分野の専門知識やベストプラクティスを社内から集約させ、企業戦略を策定したり、人材教育を底上げしたりする狙いがある。
このAIの中核的研究拠点のもと、同グループでは大きく2つの取り組みを進めている。1つ目が、デジタル企画部への「AIX推進室」の設置だ。AIXのXはトランスフォーメーションを指している。つまりAIを業務で役立てたり、イノベーションを生み出したりするなど、AIによる変革を進めていく推進室だ。
もう1つが、「内製開発ラボ」体制の構築だ。内製開発ラボでは、同グループのみずほ第一フィナンシャルテクノロジーやみずほリサーチ&テクノロジーズなどグループ企業の専門人材を、まさにAI-CoEに集約させる体制を整えている。これにより、同グループの既存業務に適用できる生成AIのアプリケーション開発などを進めていく。
AIX推進室では、生成AIの業務適用を3段階に分けて考えている。1段階目が、生成AIの導入だ。同グループでもこの1段階目は早い段階で済ませており、2023年6月にWiz Chatを導入した。
3段階ある活用フェーズ
しかし、ただ単に導入しただけでは、Wiz Chatがただのチャットツールになってしまう恐れがある。そこで、同グループでは同年7月と8月に「生成AIアイデアソン」を実施。アイデアソンとは、「アイデア」と「マラソン」がかけ合わせた造語だ。決められた時間でグループごとにアイデアを出し合いブラッシュアップさせ、その結果を競わせる。
さらに2024年4月には追加モデルとしてGPT-4 Turbo with VisionやDALL-E3をいち早く導入し、生成AIへの画像入力や出力に対応した。1段階目では、このようにまず早く導入し、とにかく生成AIを使ってみることを目的としている。
2段階目が、生成AIに社内データや、外部の最新データを活用するフェーズだ。「今のみずほグループは、このフェーズ2にいる」と齋藤調査役は説明する。2024年8月にはコールセンター業務で生成AIの活用を始めた。事務手続照会AIの「Wiz Search」、融資稟議や提案書作成AIの「Wiz Create」などといったアプリケーション群の開発も進めている。
そして3段階目が、生成AIのカスタマーサービスへの活用だ。
「顧客サービスへの活用は、まだ結構な時間がかかると思っています。利用者に提供していく上では、AIがその文脈を、責任を持って理解する必要があるため、ここは社内活用とは別の段階だと捉えています」
展開進む3つの社内生成AIツール
みずほグループでは、大きく3つの生成AIツールを社内で展開・開発している。1つ目がWiz Chatだ。これはソフトバンクの「生成AIパッケージ」を活用し、構想から3カ月程度の2023年6月に導入した。Wiz Chatは米マイクロソフト社のサービス「Azure OpenAI」を活用する形で、全国内社員に導入している。
2つ目が、事務手続照会AIのWiz Searchだ。これは同グループの内製開発ラボによって内製開発したアプリで、膨大な社内手続を検索したり、関連情報を取得したりして回答を生成するものだ。
「みずほ銀行に限らず、金融機関の手続のルールはかなり膨大で、何万ページにも及びます。これを簡単に検索し、AIによる回答を出せないかというところから開発が始まりました」
Wiz Searchは現在PoC(概念実証)を実施中だ。サービスや製品に用いられるアイデアや技術が実現可能かを確認しながら、精度改善チューニングを進めている。
3つ目が、「個別特化AI」と呼ぶ「Wiz Create」だ。これはプレゼン資料を読み込んで説明スクリプトや指摘事項、想定Q&Aを生成するアプリで、「想定QA生成AI」とも呼んでいる。
「例えば銀行の法人営業担当が中小企業の社長にところに行くと、決済商品や資金調達、M&Aなどの提案をするわけですが、作った提案書をいきなり社長に見せるのが不安になる営業担当が多いそうです。しかし、その前に上司に見せたくても忙しくてなかなか捕まらないことも少なくないのです。そこで提案書をアップロードするだけで、社長が言ってきそうな質問を指摘してくれるのが、この想定QA生成AIです」
想定QA生成AIも現在PoC(概念実証)を実施中で、「資料への指摘生成」機能などを順次追加しながら開発を進めている。
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