退職代行に怒り心頭? キレる企業が陥る「3つの勘違い」:働き方の見取り図(1/3 ページ)
退職代行からの電話にキレて感情をぶつける企業側は、3つの点で勘違いを起こしていると筆者は指摘する。退職代行事業者から電話がかかってきたとき、企業側はどう受け止めるべきなのか。
「自力でどうしようもない時に頼りになる」「利用するのは社会人として無責任」――。
退職代行サービスに対する評価は賛否両論が聞かれます。ただ、認知度が高まるとともに利用者は増え、働き手の間では徐々に定着してきているようです。
一方、退職代行を利用される会社側は、まだあまり免疫がないようです。中には本人の代わりに連絡を入れた退職代行事業者に対して悪態をつき、口汚くののしる会社側の担当者も見受けられます。
仕事をほっぽり出して退職するにもかかわらず、本人からは何のあいさつもなし。その上、事務的に見ず知らずの退職代行事業者から唐突に連絡が入れば、頭にくるのも無理はないのかもしれません。では、キレて感情を退職代行事業者にぶつけるのも、仕方ないことなのでしょうか。
著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総研』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ約50000人の声を調査したレポートは300本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
「退職代行を利用したい理由トップ3」から見えてくるものは?
以下は、複数の退職代行事業者が公開している動画から、企業とのやりとりを一部抜粋したものです。退職代行事業者が入れた電話に対し、会社側から激しい言葉が発せられているのが分かります。
「本人から伝えるのが筋じゃないのか」
「急に言われて、ハイ分かりました、なんて会社はないだろう」
「ふざけんなよコラ!」
「(退職代行事業者に対し)そういう仕事をしていて恥ずかしいと思わないのか」
「仕事できないし、辞めてもらって構わないけどムカつく」
マイナビが10月に発表した退職代行に関する調査によると、2023年6月以降の直近1年間に転職した人の中で、退職代行を利用したいと考えている人は20.1%に上ります。実際に退職代行を利用した人が挙げた理由のトップ3は、以下の通りです。
1位:引き留められた(引き留められそうだ)から
2位:自分から言い出せる環境でないから
3位:退職を伝えた後トラブルになりそうだから
これらの理由について会社側の立場から眺めてみると、退職代行事業者から連絡を受けた際にどんな思いを抱くことになるかが見えてきます。
まず「引き留められた(引き留められそうだ)から」という理由について会社の立場から眺めてみると、それだけ社員に辞めてもらっては困る、辞めてもらいたくないという思いがあることになります。長年一緒に働いてきたのに、という寂しい気持ちや、苦労してようやく採用したばかりなのにと困惑する気持ちなど、さまざまな感情が渦巻いているのかもしれません。
次に「自分から言い出せる環境でないから」については、それだけ退職を申し出るハードルが高い組織風土が形成されていると推察されます。ひょっとするとトップダウンがきつかったり、仕事がハード過ぎたりして抑圧的な空気が漂い、自由に意見が述べられないのかもしれません。その分、会社からすると退職代行事業者からの連絡は予想外のことで、「何それ?」と驚きを持って受け止められることになります。
「退職を伝えた後トラブルになりそうだから」という理由は、会社側に辞めさせたくないという強い意思があることの裏返しですが、トラブルになりそうというのは穏やかではありません。引き留め、というレベルではなく、何としても辞めさせない、断じて退職を認めないといった頑ななスタンスを取らざるを得ないほど、一筋縄ではいかない込み入った事情があることが見てとれます。
これらの思いが高じる形で、退職代行事業者から連絡を受けた会社は悪態をついたり、口汚く激しい言葉をぶつけたりすることがあります。
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