ベネッセ「年間200万件」対応のコールセンターを、生成AIで大改革! “5つの取り組み”の中身とは:【総力特集】コンタクトセンター改革
こどもちゃれんじや進研ゼミなどの通信教育を提供するベネッセコーポレーション。同社のコールセンターでは、年間約200万件もの対応を有人で行っていたが、生成AIを用いた効率化や、ビジネスプロセスの変更を通じた改革を実行。有人対応を年間約3万時間以上も減らしたという。どのような取り組みを行ったのか?
こどもちゃれんじや進研ゼミなどの通信教育を提供するベネッセコーポレーション。同社のコールセンターでは、年間約200万件もの対応を有人で行っていた(2023年度実績)。
しかし、人手不足で対応の品質を保つことは年々難しくなっていた。また、顧客視点での「つながらない」「待たされる」問題は、満足度の低下につながる課題だった。
そこで生成AIを用いた効率化や、ビジネスプロセスの変更を通じた改革を実行。有人対応を年間約3万時間以上も減らしたという。どのような取り組みを行ったのか? ベネッセコーポレーション コンタクトセンター運営部の森田哲生氏、同社からコールセンター業務を受託するTMJ(東京都新宿区)の宮川正雄氏、西原由美氏に話を聞いた。
生成AI活用で進めた「5つの改革」
TMJは、ベネッセコーポレーションの前身である福武書店が1992年にコールセンター事業を独立分社化させできた企業だ。現在はベネッセコーポレーションからTMJにコールセンター業務を委託する形を取っている。
【訂正:2024年12月5日16時00分 追加の取材に基づき、TMJに関する説明を訂正しました。】
TMJは他社からも事業を委託しているが、中でも同社の通信教育に関する問い合わせは時期によって繁閑差が大きいことが特徴だという。
「どのサービスも年末や年度末などに、通常の1.5倍ほどの問い合わせを受ける繁忙期があるが、ベネッセの場合は強烈。特に子ども向けの通信教育は、毎年3〜4月に申し込みや退会が集中するため平時に比べて2.5〜3倍ほどの差がある」(TMJ西原氏)
常勤のスタッフだけでは対応しきれないため、短期間のみの雇用で新人を採用しているが、短期で育成するため対応品質にばらつきが出てしまう上、人手不足の状況下での大量採用と育成にはコストがかかる。
こうしたコストを削減し、また業務効率化の取り組みを推進するため、ベネッセホールディングスとTMJは2023年6月に生成AIを活用した「次世代型コンタクトセンタープロジェクト」を開始した。国立研究開発法人産業技術総合研究所発のベンチャー・Hmcomm(東京都港区)と共同で進めるものだ。取り組みの内容は大きく5つある。
(1)問い合わせをユーザーが「自己解決」できるよう整備
「紙のDMを見てフリーダイヤル番号にかける」という従来の顧客の行動を、Webサイトやアプリなどのオンライン動線に移行し、FAQやチャットbotを用いて「自己解決」できるよう整備した。
取り組みの指標として有人の電話対応以外の手段で問題を解決した割合を「ノンボイス率」と定義。プロジェクトが始まる前の2019年度から取り組んでいたものを、生成AIの活用でさらに効率化でき、5年間で退会対応を除く問い合わせのノンボイス率は倍増した。
(2)オペレーター応対前のサポートを充実
電話がつながるまでの待ち時間に、ユーザーが会員番号や生年月日を入力し、通話時にはオペレーターの手元に会員情報が表示されるように仕様を変更。通話1件当たりの時間を平均1分間短縮した。年間約200万件の問い合わせがあるため、単純計算で約3万時間以上を削減できたと考えられる。
(3)オペレーター応対中の自動化
オペレーターは顧客への対応に際して、必要な情報を参照できるナレッジマネジメントツールを活用するが、これを必要とする新人ほど、不慣れで使いこなせないという課題があった。通話を保留して管理者に口頭で質問することも多かったという。
対応中の保留時間が長いほど、顧客の満足度は下がってしまうため、システムの検索性を向上。保留時間を短縮した。
(4)オペレーター研修の効率化・質向上
オペレーターの質向上のため、応対中の会話音声をテキスト化し評価するツールを導入。これまでは管理者が特定の応対の音声を聞き、フィラー(言い淀み)の多さや返答の的確性を評価していたが、全ての応対をテキスト化し平均点で評価することに。「オペレーター本人が課題を正確に認識でき、評価に対する納得度が高まった」(西原氏)という。
(5)センター管理業務の生産性向上
人手不足はオペレーターだけの問題だけではなく、管理者においても同様だった。繁忙期にはオペレーター不足をカバーするため現場業務に入らざるを得ない状況もあったという。管理者の業務であるオペレーターの稼働管理、シフト作成などをAIが代行することで、負担の軽減につなげた。
今後取り組みたいのは「Web退会」と「AIによる自然な対話」
今後はコンタクトセンター業務をよりブラッシュアップしていく上で、どのようなことに取り組みたいのか。森田氏は2つのテーマを挙げる。
1つは、Webで退会できるフローを作ることだ。教育サービスの性質上、退会を選ぶ顧客は学習上の課題を抱えていると考えられる。これまでは、こうした課題を人がヒアリングし、教材の活用方法を提案するなどして解決につなげ、継続してもらえる状況を作ることを企業のポリシーとしていた。
しかしながら、中には「すでに学習塾の契約をした」など、退会の意思が固い顧客もいる。そうした顧客に継続のための提案をしても、双方にとって不毛だ。
「チャットbotなどの手段で退会理由を把握し、場合によってはWebで退会手続きを完了できるようにしたいと考え、トライアルを実施中です。その結果、コスト削減だけではなく、対話による利益の逸失を最小化できると見極められたら、来年度に本番展開する予定です。事業として大きな判断なので、慎重に進めていきます」
もう1つは、より広範囲の音声での対応にAIを活用することだ。現在は会員番号や生年月日を聞き取り、本人確認をする段階までは実現させている。これにとどまらず、例えば顧客から「住所変更をしたい」を言われたら、AIが本人確認から変更に関する質問への臨機応変な回答、変更の完了までを担えるようなフローを目指す。
「AI側がしゃべっている途中でお客さまに遮られ、会話が分断されたとしても、やり取りを続けられる。そんな自然なやり取りでAIが対応できれば理想です」
ベネッセとTMJ、そしてHmcommの3社が共同で進めるこの改革は、企業がコールセンターにかける人件費などのコストを削減するものだ。TMJにとっては、長期的には売り上げの減少につながる可能性も否めない。どのように捉えているのか。
「BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスの立場からすると、デジタル化が進むほどわれわれは売り上げが下がります。しかし、業界全体として労働力が集約されていく一方で、デジタルソリューションは伸びていくという予想が出ています。当社は業界における最大手ではないですが、多くの顧客に『ベネッセとどんな取り組みをしているのか』と興味を持っていただいていて、時代を先取りしていると自負しています。AI活用の知見を生かして新サービスのリリースもしており、業界をリードしていければと考えています」(TMJ宮川氏)
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