人材つなぎとめへ 企業は「賃金体制」どう見直すべきか?:人材獲得 大競争時代(3/3 ページ)
連載「人材獲得 大競争時代」第5回は賃金制度そのものの望ましいあり方について、調査データを踏まえて考える。
最大の課題は「年功序列からの脱却」
とはいっても、働く人々の生活に大きな影響を与える賃金制度だけに、企業は慎重に検討している様子も、この調査からうかがえます。
「賃金や報酬制度について、制度を変え、従来のやり方を見直す必要性を感じている」と回答した企業のうち、「必要性に応じて、『賃金や報酬制度』に関する人事制度の改定・やり方の見直しができているか」という問いに「できている」「ややできている」と回答したのは32.7%。変化の必要性は感じているものの、実際に変革にまで至るケースは部分的であることが分かります。
特に企業の頭を悩ませていると考えられるのが、「年功序列」の賃金体系です。
前出の「企業の給与制度に関する調査」では賃金制度に関する運用課題について、13の選択肢を提示して質問したところ、管理職の賃金制度における運用課題として挙げられた最多の項目は「年功的な運用から脱却できていない」(24.6%)でした。非管理職でも同じ回答が20.9%に上り、「評価者による評価結果のバラつき」(26.0%)に次いで、2番目に多い結果となりました。
近年は成果や求める役割に応じて賃金を支払う「ペイ・フォー・パフォーマンス」型の賃金体系をとる企業が増えてきていますが、「年功序列」に代表される長く続いた日本的雇用慣行の影響を受け、制度の見直しに時間がかかっている様子がうかがえます。
これまで賃金制度をめぐる企業の課題を見つめてきましたが、変革のためには、「外部の基準・相場の把握」が重要なポイントになるといえるでしょう。
賃金・報酬制度や評価制度は、いずれも企業経営の根幹となる人事制度です。「評価」や「賃金・報酬」の制度は、セットになることで経営のメッセージとなりえます。従業員のどのような行動を評価し、どのようなパフォーマンスに対して賃金や報酬を支払うのか、制度を通じて従業員に伝わるのです。
こうした経営によるメッセージは、従業員が成果を出すためのモチベーションや、企業へのエンゲージメントの向上につながるのではないでしょうか。評価や賃金・報酬の一つだけを見直すのではなく、全てにおいて一貫性のある見直しを行い、その内容を従業員や採用候補者に正しく伝える――。こうした地道な取り組みこそが、社内外の人材を引きつける一歩となるはずです。
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