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なぜ、経営層が採用現場に出るべきなのか ハイキャリア層に響く「自社アピール」とは?人材獲得 大競争時代(1/2 ページ)

求職者から選ばれる企業が採用活動において、どのような取り組みを行っているのか解説する本連載。今回は、スタートアップの事例を通じて、採用を進めるためのノウハウを紹介する。

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連載:人材獲得 大競争時代

人手不足が深刻化し、採用難が進む中、企業は人材確保に向けてどのような手を打てばいいのか。求職者に選ばれる企業の特徴とは――。さまざまな事例を通じて、採用がうまく進む企業の特徴を明らかにする。

 本連載では、求職者から選ばれる企業が採用活動において、どのような取り組みを行っているのか解説してきました。今回は、スタートアップの事例を通じて、採用を進めるためのノウハウを紹介します。

 日本の経済成長や雇用創出、社会課題解決の担い手として、スタートアップへの期待が高まっています。政府はスタートアップの育成を「新しい資本主義」の実現の重要施策と位置づけており、2022年には「スタートアップ育成5か年計画」を発表しました。日本における「ユニコーン企業」(企業価値10億ドル超の非上場企業)の創出スピードは世界に差をつけられている状況にある中、国を挙げてスタートアップが速く、大きく育つ環境をつくろうとしていると考えられます。

 こうした追い風を受けて、急成長を目指すスタートアップでは採用を強化しています。しかしながら、スタートアップへの転職は、求職者から不安を抱かれることが多いのも事実です。人材紹介サービス「リクルートエージェント」のデータでは、2023年度の求人数は、2015年度の6.8倍に伸びていました。一方の転職者数の伸びは3.1倍で、スタートアップの人材ニーズに転職者数が追い付いていない状況が表れています。特に大手企業に在籍する人は、働き方や組織風土の面でギャップが大きいのではないか、という懸念や不安を抱きがちです。


スタートアップへの転職者数は増えているが、求人数の伸びに追い付いていない(出典:リクルート調査

 こうした求職者の不安を解消するためには、自社のありのままを知ってもらうことが重要です。とはいえ、未上場のスタートアップはIRなどの情報開示がどうしても乏しくなってしまうほか、ホームページでの情報発信も不十分な傾向にあるため、会社の風土や環境をつまびらかにする取り組みが必要といえます。

 では「誰が」「どのような情報を」求職者に提供すればよいのでしょうか。筆者が転職エージェントとしてスタートアップの採用を支援してきた経験から、求職者を引きつけるために有効といえる施策があります。それは、募集している役職にかかわらず、「経営層が採用現場に出て、積極的に関与する」ことです。

 筆者が支援するスタートアップに、この手法を用いて、求める人材の獲得に成功したケースがあります。どのように採用活動を進めたのか、さっそく見ていきましょう。

著者プロフィール:氣谷晋太朗(きや・しんたろう)

製薬メーカーでMRとして勤務したのち、リクルートキャリア(現リクルート)に入社。以来ハイキャリア専任コンサルタントとして企業の採用、求職者の転職の支援に従事。現在はスタートアップを中心に担当。


優秀なDXコンサルタントを採用できたスタートアップの事例

 SaaSサービスを手がけるスタートアップA社では、大手企業向けDXコンサルティング事業の強化に際し、DXコンサルタント職を募集。しかし同様の求人を出している企業は多く、ターゲットとなる人材は引く手あまたの状況です。求める人材像に合う求職者からの応募はほとんどなく、まれに選考に進んだケースも、現職と遜色ない給与額を提示することはできず、求職者から選考を辞退されていました。スカウトサービスも活用していましたが、スカウトメッセージへの返信は皆無。採用活動開始から数カ月経っても、採用に至りませんでした。

 そんな状況下、A社の採用を支援することになった筆者は、手始めにこう提案しました。「『COOによるカジュアル面談の確約』を示したスカウトメッセージを、ターゲットとなる求職者に送りましょう」

 これまでの経験から、「応募前のカジュアル面談」「役員クラスとの面談」を確約するスカウトメッセージを送ることで、求職者からの返信率が高まることが分かっています。ハイキャリア層ほど、今すぐ転職する意思がなくても、その企業に興味がなくても、「経営層と話せる機会を得られるなら」と応じてもらえることが多いのです。結果、面接で意気投合したり、「この経営者に賭けてみたい」という気持ちが湧いたりして、転職に至るケースは少なくありません。


スタートアップの採用支援から見えてきた、求職者を引きつけるために有効な施策とは? 写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

 A社においてもその狙いは的中。数人から返信があり、COOとのカジュアル面談が行われました。面談後、「やはり今は現職にとどまる」と辞退した人もいましたが、1人が入社に至りました。グローバルコンサルティングファームに勤務していたコンサルタントのBさんです。

 スカウトメッセージへのBさんの返信は、「興味があるのでお話ししてみたい」と、ポジティブなものでした。そこでA社のカジュアル面談の前に、筆者がBさんと面談したところ、Bさんが「こんなキャリアを歩みたい」と描く将来ビジョンが、A社のCOOの考え方に近いことに気付きました。そこでA社に対し、「面談では、COOが何を目指し、どのような思いでこれまでのキャリアを選択してきたのかをお話ししてください」と提案しました。

 COOはその通り、自身のこれまでの歩みと今後のビジョンを伝え、Bさんの思いも聴きながら双方向で語り合ったようです。「この人と一緒に働いてみたい」と興味を強めたBさんは実際に応募し、面接へと進みました。最終面接にはCEOが臨み、Bさんが目指すキャリアに対し、その実現をどうサポートできるかを説明。Bさんは、今後の自身の成長を描くことができ、A社への入社を決意しました。

 このように、カジュアル面談で求職者のニーズを踏まえた内容を伝えることで、A社ではその後もキャリア採用が進んでいます。

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