「あえて非正規」増加 ウラに潜む“由々しき問題”とは?:働き方の見取り図(1/3 ページ)
自ら望んで非正規を選ぶ「あえて非正規」が増えていると言われている。その裏にはさまざまな誤解があると筆者は指摘する。
アルバイトやパートなど、非正規社員に向けられるイメージは「雇用が不安定」「立場が弱い」「低賃金の代表」――など基本的にネガティブです。
ところが、正社員の仕事が見つからないため不本意ながら非正規社員として働くのではなく、自ら望んで非正規を選ぶ「あえて非正規」が増えていると言われています。かねて、働き手は正社員を望むものと思われてきただけに、あえて非正規の増加は不思議な現象と映るかもしれません。
しかし、あえて非正規の増加をめぐっては、さまざまな誤解があります。また、その陰に潜んでいる由々しき問題もあります。
著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総研』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ約50000人の声を調査したレポートは300本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
「あえて非正規」が増えたと言われる理由
あえて非正規が増えたと言われるようになったきっかけは、総務省が発表した労働力調査です。2023年と5年前の2018年、10年前の2013年とを比較してみると、非正規社員の数は、23年時点で18年と比べて4万人上昇、13年と比べると218万人上昇しています。
その中であえて非正規が増えたとされるのは、非正規社員として就業している人の理由に変化があったためです。各年における非正規社員の割合を、その理由ごとにグラフ化すると、図表1のような推移になります。
顕著に増加しているのが「自分の都合のよい時間に働きたいから」で、2013年と2023年を比較すると10.9ポイント上昇。一方、顕著に減少しているのは「正規の職員・従業員の仕事がないから」で、10年前からほぼ半減しています。
つまり「正規の職員・従業員の仕事がないから」というネガティブな理由で就業している不本意型非正規社員は減り、「自分の都合のよい時間に働きたいから」というポジティブな理由で非正規社員を選んでいる本意型が増えています。それが、あえて非正規が増えたと言われる理由です。
さらに「正規の職員・従業員の仕事がないから」という理由で非正規雇用で就業する人の比率を、年齢階層別に比較してみると、図表2のように推移しています。15〜24歳の層については学生比率が高いため、学生を除いた比率です。
15〜24歳、25〜34歳で下降幅が特に大きいことが分かります。35歳以上の層は下降幅が10ポイント未満で年齢層が上がるにつれ幅は小さくなりますが、全ての層で比率が下降していることが分かります。
そのため、あえて非正規が増加した原因は、若年層を中心に正社員志向が薄れるなど働き手の価値観が変化したことにあると言われます。確かに時代とともに価値観が変化している可能性はあるものの、あえて非正規の増加原因は価値観の変化だ、と断定すると誤解を招きます。
非正規社員として働く理由のトップは、2013年以降ずっと「自分の都合のよい時間に働きたいから」であり、2番目の理由も「家計の補助・学費等を得たいから」で変わりません。一方「正規の職員・従業員の仕事がないから」というネガティブな理由はずっと3番目以下です。非正規で働く人の価値観はもともと多様であり、あえて非正規は以前から多かったのです。
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