なぜ私たちは働きづらいのか 「働き方の壁」を言語化して初めて分かること:働き方の見取り図(1/3 ページ)
働きづらさの背景には、さまざまな「働き方の壁」が存在する。それらを言語化していくと、誰もが働きづらさをはっきりと認識できる。働き手の周りにはどんな「壁」が立ちはだかっているのか。
かねて問題視されてきた「年収の壁」。扶養枠に収まるよう、主婦層などが労働時間を短く調整する130万円などの収入上限を指します。もっと働きたいと考える人は働きづらく感じ、職場は労働力を確保しづらくなる、といった弊害が指摘されています。
日々仕事をする中で働きづらさを感じているのは、何もこうした主婦層だけではありません。働きづらさの背景には、さまざまな「働き方の壁」が存在しています。年収の壁もその一つですが、多くは具体的な数字などで見ることができないだけに、無視されがちです。
さまざまな働き方の壁を言語で表現して輪郭をつければ、誰もが働きづらさをはっきりと認識できます。働き手の周りには、どんな「壁」が立ちはだかっているのでしょうか。
著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総研』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ約50000人の声を調査したレポートは300本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
「年収の壁」だけではない多くの「壁」
年収の壁などに悩む主婦は何かと制約が多いだけに、どんな壁に囲まれているかが最も分かりやすい層の一つです。主婦層の周りに立ちはだかる壁の一つ一つに輪郭をつけていくと、働き方の壁がどういうものなのかが見えてきます。
例えば「制度理解の壁」。主婦層が扶養枠に収めた方がいいのかどうかを判断するためには、まず制度自体を正確に把握していなければなりません。
年収の壁と呼ばれる扶養枠の収入上限額には、国民年金などに加入することになる130万円以外にも、住民税がかかる100万円や所得税がかかる103万円、厚生年金などに加入することになる月額8万8000円(いわゆる106万円)などもあります。
また、国民年金に加入した場合と厚生年金に加入した場合とでは、保障内容も変わってきます。これらの違いを正確に把握しようにも種類が多く、それぞれ適用条件も異なるだけに複雑です。さらに、夫が勤める会社から支給される家族手当などの規定も絡んできます。
そのため、いま扶養枠に収めて働いている主婦層の中にも「よく分からないから、とりあえず103万円に収めよう」と収入上限を何となく決めている人も少なくありません。一方、本当は扶養枠に収めた方がメリットが多いのに、よく分からないまま扶養から外れて働いている可能性もあります。それが、制度理解の壁です。
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