なぜ私たちは働きづらいのか 「働き方の壁」を言語化して初めて分かること:働き方の見取り図(3/3 ページ)
働きづらさの背景には、さまざまな「働き方の壁」が存在する。それらを言語化していくと、誰もが働きづらさをはっきりと認識できる。働き手の周りにはどんな「壁」が立ちはだかっているのか。
「仕事一択」を前提としたマネジメントの限界
かつての家庭は、男性が正社員として働き、女性は専業主婦となって家を守る性別役割分業モデルが基本でした。女性は結婚すると夫に養われ、親や親せき、会社の上司などから「旦那さんが仕事に専念できるように、家をしっかりと支えてね」と要求されました。
正社員と呼ばれる働き方は期間も職務も勤務地も無限定で「24時間タタカエマスカ」が流行語になったように、長時間労働を余儀なくされます。仕事のためだけに100%時間を使える“仕事一択”状態こそが、標準のワークスタイルだと見なされてきました。
職場の要望に従って残業や転勤は当たり前で「自分にとって最適な働き方を選択する」という考え方自体がありませんでした。つまり、働き方の壁とは、長い間、仕事一択状態を当たり前に受け入れてきた多くの働き手にとって、認識する必要性を感じる機会すらなかった壁なのです。
ところが、家庭のあり方は徐々に変化し、女性は仕事と家庭を両立させるマルチタスクへ移行していきました。一方で、男性は引き続き仕事に専念し続けるシングルタスク状態であり、シングルタスクとマルチタスクかけあわせ型の家庭が多く見られるようになりました。
仕事のためだけに100%時間を使える男性の働き方がいまも標準視される一方、マルチタスクをこなす女性の働き方は特殊と見なされてきました。ところが、時代の流れは、夫婦がともに家事や育児に携わり、誰もがワークライフバランスをとり、副業することが珍しくない方向へと進んでいます。
今後、そのように夫婦ともマルチタスクかけあわせ型の家庭が増えていくと、仕事のためだけに100%時間を使うことができる働き方の方が特殊と見なされていくことになります。そして、仕事と家庭、本業と副業など、両立して働く方が標準の働き方と認識されるようになっていきます。
働き手の志向は、どんどん多様化しています。既に、主婦層以外にも周りにたくさんの働き方の壁を感じる働き手は少なくありません。ところが、多くの職場ではいまも仕事一択を前提としたマネジメントが行われています。
こうした前提が修正されないまま、仕事のためだけに100%時間を使える状態を標準と見なすマネジメントが続けば、働きづらさを感じる働き手がますます増えていき、生産性にも望ましくない影響を及ぼすのではないでしょうか。
関連記事
- なぜ休日に業務連絡? 「つながらない権利」法制化の前に考えるべきこと
「つながらない権利」が近年、関心を集めている。業務時間外の連絡対応の拒否を求める声が高まっている。法制化して職場とのつながりを一切遮断すれば解決するかというと、問題はそう一筋縄では行かない。「つながらない権利」問題の本質とは――。 - 秘書検定にITパスポート……「資格沼」から抜け出せない、どうしたら?
キャリアアップ、ワークライフバランス、リスキリング――この先どうすれば自分が納得できるキャリアを歩んでいけるのだろうか。多くのビジネスパーソンの働き方を見つめてきたワークスタイル研究家の川上敬太郎さんが回答する。 - 台風でも出社……テレワークできない企業が抱える3大リスク
コロナ禍を経て一度は根付いたテレワークだが、出社回帰が急速に進んでいる。ワークスタイル研究家の川上敬太郎氏は、テレワーク環境を整備していない企業が陥る3つのリスクを指摘する。 - 平均月給31万円、過去最高だけど……「賃上げラッシュ」に潜む3つの課題
フルタイムで働く人の2023年の平均月給は、過去最高の31万8300円――この数字に納得感を持てた人は果たしてどれくらいいるだろうか。賃上げの機運が高まりつつある一歩、その内実は本当に喜べるものなのか。 - ビッグモーター不正 忖度した「中間管理職」は加害者か被害者か?
会社が組織ぐるみで不正を行った場合、トップの意思決定者と不正を実行した社員との間に位置する中間管理職は、加害者か被害者のどちらになるのか――。上司に盲目的に忖度する中間管理職は、企業を滅ぼしかねない存在でもあると筆者は指摘する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.