なぜ私たちは働きづらいのか 「働き方の壁」を言語化して初めて分かること:働き方の見取り図(2/3 ページ)
働きづらさの背景には、さまざまな「働き方の壁」が存在する。それらを言語化していくと、誰もが働きづらさをはっきりと認識できる。働き手の周りにはどんな「壁」が立ちはだかっているのか。
家事や育児、介護といった家周りの仕事をこなしながら働きたいと考える主婦層の周りには、他にもさまざまな壁があります。
例えば「時間制約の壁」。夕飯の支度などで午後5時までに帰宅しておきたい場合、終業が午後5時以降の職場に勤めることは物理的に不可能です。また、家周りの仕事の負担が大きければ大きいほど、月〜金の勤務は体力的にきつく、週3日程度がちょうどよいケースもあります。
このように時間制約があると、仕事選びも大変です。賃金や職務内容といった要素以外にも、勤務時間や勤務日数、通勤場所などの条件を同時に満たす必要があるからです。ところが、それらの条件を同時に満たす仕事は世の中に多くはありません。すなわち「仕事条件の壁」です。
希望に沿う仕事が少ない中で、運よく条件に合う仕事が見つけられたとしても、子どもが熱を出したりして急な休みや早退、時差出勤などの調整が必要になることがあります。家事や育児には休みがなく、職場とは異なる大変さがあります。そんな仕事と家庭の二刀流をこなさなければならない「両立の壁」もそびえています。
さらに、主婦層の中には、パートなどで働きながら家庭と両立させている兼業主婦だけでなく、専業主婦となって何年も仕事から離れる人もいます。するとその期間はブランク(空白)扱いされ、再就職する際に不利に扱われることがあります。すなわち「ブランクの壁」です。
ブランクが生じて職務経験がブツ切りになってしまったり、時短勤務しているからとサポート的な仕事しか任されなくなったりすると、積み重ねてきたキャリアを発展させづらくなります。するとそこには「キャリア形成の壁」が生じることになります。
全ての働き手にそびえる「働き方の壁」
ここまで見てきて「色んな壁に取り囲まれているのはあくまで主婦だけじゃないか」と思った人もいるかもしれません。しかし、本当にそうでしょうか?
例えば、テレワークを希望する働き手にとって、希望に合う条件の仕事を見つけることは簡単ではありません。主婦層が感じるのと同様に、テレワーク希望者の前には「仕事条件の壁」が立ちはだかっています。
副業したい働き手の前にも「仕事条件の壁」はそびえ立っているかもしれません。既に副業をこなしている働き手であれば、本業と時間をやりくりしながら「時間制約の壁」を感じているはずです。
他にも、家事や育児に携わる男性が増えれば「時間制約の壁」はもちろん、「仕事条件の壁」や「両立の壁」とも折り合いをつけなければならなくなります。男性の育休取得率が上がったり、専業主夫になる男性が増えたりすれば「ブランクの壁」や「キャリア形成の壁」も立ちはだかります。
「制度理解の壁」も然り。雇用形態ごとに異なるメリットとデメリット、有給休暇の取得条件など、雇用周りの制度を正確に理解するだけでも大変です。いまの働き方が最適なのかどうかを判断するためにも、雇用周りの制度を理解する必要があります。
これらは決して主婦層の周りだけにそびえている特殊な壁ではなく、時代の流れとともに、性別を問わず全ての働き手の周りにそびえる壁になってきているのです。
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