「あえて非正規」増加 ウラに潜む“由々しき問題”とは?:働き方の見取り図(2/3 ページ)
自ら望んで非正規を選ぶ「あえて非正規」が増えていると言われている。その裏にはさまざまな誤解があると筆者は指摘する。
「働き手の価値観が変化した」のではなく……
非正規社員にネガティブなイメージがつきまとっているのは、正社員になりたくてもなれない不本意型の非正規社員の悩みが深刻で、社会問題として認識されてきたことが大きな要因の一つだと思います。そのためクローズアップされやすく、非正規社員全体のイメージが不本意な働き方というイメージとひも付けられてきた面があります。
ところが、2023年になると「正規の職員・従業員の仕事がないから」という理由は、「家計の補助・学費等を得たいから」などに抜かれ、非正規として働く理由の5番目にまで下がりました。全体の傾向として、あえて非正規がこれまで以上に増えていること自体は間違いありません。
背景には、正社員就業率の変化があります。図表2の時と同様に、15〜24歳の層については学生を除いた上で年齢階層別に正社員就業率を算出したグラフが図表3です。
「正規の職員・従業員の仕事がないから」の比率が顕著に下降していた15〜24歳と25〜34歳の層で、正社員就業率が着実に上昇してきていることが分かります。2013年と比較すると、35〜44歳と45〜54歳でも若干の上昇が見られますが、その値が2.0と1.8ポイントであるのに対し、15〜24歳の上昇幅は8.6ポイントと4倍以上、25〜34歳でも5.0ポイントと2倍以上です。
図表3を踏まえると、特に34歳以下の正社員就業率上昇が寄与して、反比例する形で不本意型非正規社員の比率が減少していった様子が浮かんできます。
非正規社員として働く理由として「正規の職員・従業員の仕事がないから」を挙げた比率は、2013年から2023年までの間に3番目から5番目へと下がりましたが、正社員の数は2013年から2018年の間に182万人、2023年までの間だと312万人増えています。
そこで、増えた正社員の就業者数を「正規の職員・従業員の仕事がないから」と回答した人の数に足して再度比率を算出してみると、図表1の数値は図表4のように変わります。
「正規の職員・従業員の仕事がないから」の比率は2013年の17.9%から上昇し、2018年以降は「自分の都合のよい時間に働きたいから」に次いで2番目に高い理由となりました。つまり、この10年の間に「正規の職員・従業員の仕事がないから」と回答した人が減少した数以上に、正社員就業者の数が増加したということです。
以上から「正規の職員・従業員の仕事がないから」を理由に非正規社員として働く人の比率が減少したのは、働き手の価値観が変化したというよりも、正社員になってその希望が満たされた人が増えたことが大きく影響していると考えられます。
さらには、正社員の中にも、職場から強い束縛を受けることなどが負担で辞めたいと考えながら就業している不本意型正社員が一定数います。それが、有効求人倍率が1倍を上回り続け、人口減少が相まって売手市場になったことや、失業率が安定的に3%を下回り続けて失業の心配が薄れてきたことなどから、思い切って非正規社員へと移りやすくなった面もあるかもしれません。
働き手の価値観はもともと多様だったものの、個々の価値観に沿った働き方を選ぶ難易度は高いものがありました。それがこの10年で労働市場が変化し、正社員を望む者は正社員に、非正規社員を望む者は非正規社員により就きやすくなり、徐々にではありますが誰もが望む働き方を選べる環境へと近づきつつあるように感じます。
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