「あえて非正規」増加 ウラに潜む“由々しき問題”とは?:働き方の見取り図(3/3 ページ)
自ら望んで非正規を選ぶ「あえて非正規」が増えていると言われている。その裏にはさまざまな誤解があると筆者は指摘する。
「あえて非正規」の陰に潜む“年齢の壁”
ただ、この流れ自体は望ましいことに違いないものの、あえて非正規の比率が増えている陰に隠れた由々しき問題があります。先に見た通り、「正規の職員・従業員の仕事がないから」の比率は34歳以下だと2桁以上下降していますが、35歳以上の層では下降幅が1桁にとどまり、年齢層が上がるにつれて下がり幅が小さくなっていきます。
一方、正社員就業率はそれに反比例するかのように34歳以下の上昇率が高く、35歳以上は低くなっています。さらに45歳以上は正社員就業率が70%を切っており、55〜64歳は上昇幅こそ3.6ポイントと高めではあるものの、定年年齢をまたぐこともあってか50%台に留まっています。65歳以上にいたっては正社員就業率が30%にも届かず、この10年の間に下降してしまいました。
日本の労働市場全体を見渡すと、あえて非正規が増加傾向にあり、自らが希望する働き方を選べるようにはなっていたとしても、恩恵を受けているのは34歳以下の若年者に偏りがちです。特に45歳以上の層で見劣りします。あえて非正規が増えている陰には、表立っては見えにくい“年齢の壁”が潜んでいるようです。
正社員就業率が低く抑えられている45歳以上の層も含め、望ましい働き方を選択しやすくしていくには、大きく2つのポイントがあります。1つはL字カーブなどと呼ばれるように、結婚や出産を機に女性の正社員就業率が下降しはじめ、年齢の上昇と反比例しながら減少し続けていく状況を改善することです。そのためには職場はもちろん、家庭内に残る性別役割分業にもメスを入れる必要があります。
そして、もう1つは“働かないおじさん問題”などと揶揄(やゆ)されるように、年齢が上がっていくにつれ、やがて給与が能力を追い越してしまうことがある年功賃金の仕組みから脱却することです。年齢ではなく職務内容にひも付いた給与体系に変えていくことが、解決策の一つとして考えられます。
それはまさに、いまは名前ばかりが独り歩きしている感があるジョブ型雇用が持つ特徴です。45歳以上の正社員就業率を向上させるには、解雇規制を整えるなどしてジョブ型雇用も機能するよう法制度の整備を図ることも有効な施策となるのではないでしょうか。
また、かつて物議をかもした45歳定年制は、定年年齢の前倒しと解釈されて非難を浴びました。定年という言葉を用いたことは間違いだと思いますが、45歳を一つの節目としてメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へ切り替えられるようにするなど、一定の年齢を機に新たなキャリアの選択肢を設ける意図と解釈するならば、いまこそ検討すべき施策だと言えるのではないでしょうか。
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