2015年7月27日以前の記事
検索
ニュース

「人間の姿したAIアナウンサー」起用 80言語話し原稿はノーミス TV現場の未来は?琉球朝日放送

沖縄県のテレビ局・琉球朝日放送(QAB、那覇市)はNEC(東京都港区)と協業し、国内のテレビ局としては初めてとなる「人間の姿をしたAIアナウンサー」を活用した番組制作を開始する。

Share
Tweet
LINE
Hatena
-

 沖縄県のテレビ局・琉球朝日放送(QAB、那覇市)はNEC(東京都港区)と協業し、国内のテレビ局としては初めてとなる「人間の姿をしたAIアナウンサー」を活用した番組制作を開始する。

 2025年1月から地上波放送やインターネット配信が始まる予定。“無限体力のAIアナ”を活用することで、早朝や深夜でもニュース放送・配信が実現できるだけでなく、多言語対応による幅広い情報発信や新規事業開拓の裾野を広げる。

 同局の池原あかね常務は「働き方改革と収益の拡大の両方につなげていきたい。運用しながら課題は出てくるとは思うが、まずは新しい技術を活用してみることが大事」だと期待を込める。


琉球朝日放送は2025年1月から国内のテレビ局としては初めてとなる「人間の姿をしたAIアナウンサー」を活用した番組制作を開始する。AIアナウンサーによるニュースのイメージ画像(琉球朝日放送提供)

著者プロフィール:長濱良起(ながはま よしき)

photo

沖縄県在住のフリーランス記者。音楽・エンタメから政治経済まで幅広く取材。

琉球大学マスコミ学コース卒業後、沖縄県内各企業のスポンサードで2年間世界一周。その後、琉球新報に4年間在籍。

2018年、北京に語学留学。同年から個人事務所「XY STUDIO」代表。記者業の他にTVディレクターとしても活動。

著書に『沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!』(編集工房東洋企画)がある。


3カ国語に対応 観光客向けにも発信

 読み上げ機能や自動翻訳技術は日進月歩で進化している。自然な音声読み上げが可能となる中、AIアナウンサーはニュースや広告に登場する。ニュース番組の数を増やせることでスポンサー収入拡大が期待できるほか、より即時的にニュースを届けられるようにもなる。多言語対応は英中韓の3カ国語から始め、県内在住者や観光客への情報発信に努める。

 AIアナウンサーには、韓国のAIスタートアップ「DeepBrain AI」のAIアバターソリューションを利用。多様な外見だけではなく、声の質やトーンも変更することができる。言語は80以上から選ぶことができる。言語によってAIの学習度合いに幾分の差はあるものの、アナウンサーとしての“力量”には不安がない。

 NECは、放送原稿からアナウンス映像などを自動的に制作するシステムを構築する。同社が琉球朝日放送の放送設備・機器を担当しており、担当者同士が日頃から会話のキャッチボールを重ねる中で、NEC側の発案がきっかけとなった。

 この事業には県の「令和6年度沖縄DX促進支援事業補助金」を活用した。7月下旬に採択されてから実用化まで、約半年間で準備を終えることとなる。

AIアナウンサー、広告収入にうってつけ?

 これまで、人気の職業の代名詞といえる存在だったテレビアナウンサー。実は、キー局や地方局を問わず、アナウンサー職に人材が集まりにくくなっている現状があるという。

 池原常務は「アナウンサー志望の学生は本当に少なくなっている。特に若い人はテレビ離れが進んでいて、ここ約10年間で顕著だ」と語る。


アナウンサー職に人材が集まりにくくなっていると話す琉球朝日放送の池原あかね常務(筆者撮影)

 報道の世界では突発的な対応を求められ、時間的なゆとりが確約できないことが多い。これは、プライベートの充実やワークワイフバランスを重視する時代に人材確保をするには不利な材料となってきた。AIアナウンサーを活用したニュース放送では、アナウンサーのみならずカメラや音声といった技術スタッフの稼働が不要であることから、現場全体の負担軽減にもつなげられる。

 池原常務自身も以前はアナウンサーとして日々ニュースを伝えていた立場だった。視聴者に対して、その人柄ごと親しみを覚えてもらえるアナウンサー。その仕事の一部がAIに置き換わることに対して、社内からの反応、特にアナウンサー自身からの反応が気になるところではあるが「自分たちができないことを補ってくれる」という点で好意的だったという。

 機械的に間違えずに読み上げることができるAIアナウンサーは、広告収入が重要な位置を占める放送局にとっては相性が良いといえる。広告原稿は特に読み間違いが許されないためAIアナウンサーに任せる一方で、臨機応変な対応や、表情やニュアンスでの表現、会話の掛け合いなどは、生身のアナウンサーでしかできない分野でもある。お互いの長所を生かした番組コンテンツ作りが進むこととなる。

他局からも問い合わせ

 沖縄は、米軍人・軍属やその家族などが5万人近くいるとされる。また、観光地や移住先としても人気があることから、多言語での情報ニーズが高い。

 4月に県内各地方で津波警報が発表された際には「いかに外国人の皆さんに情報発信できるかを、課題として痛感することになった」と、琉球朝日放送技術部・中田英介副部長は振り返る。AIアナウンサーは、放送局としての責任を果たすためのツールとしても捉えているようだ。

 前述の通り、80以上の言語に対応するDeepBrain AIのAIアバターは、言語の壁を取っ払うことができる。今後は、県内在住者が多いネパール人やベトナム人に向けた情報発信も視野に入れている。

 琉球朝日放送とNECの取り組みを受けて、他の放送局からも問い合わせなどがすでに来ているという。NECの仲村孝子さんは「どの放送局も人手不足という課題は一緒だと思う。この技術を使って人手不足を解消することで『やりたかったけどできなかったこと』や『新しいこと』ができることは有用」だと話す。

 「AIが人間の仕事を奪っていく」のではなく、「人間がやりたいことに集中できるようにAIに助けてもらう」ことが実現可能となりつつある昨今。人間とAIの仕事上での共存を見る上でも、参考になる取り組みだ。視聴者に愛される名物AIアナウンサーが各地で次々と生まれていくのかもしれない。


AIアナウンサーの活用について話す(左から)琉球朝日放送の池原あかね常務、中田英介放送技術部副部長、NECの仲村孝子さん(筆者撮影)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る