スポーツカーに未来はあるのか “走りの刺激”を伝え続ける方法:高根英幸 「クルマのミライ」(3/5 ページ)
スポーツカーはクルマ好きの関心を集め続けているが、乗り回せる環境が限られるようになってきた。一方、マツダ・ロードスターなど価値のあるモデルも残っている。トヨタは運転を楽しむ層に向けた施策を展開している。今後のスポーツカーを巡る取り組みにも注目だ。
アイオニック5Nの加速性能は刺激的だが……
少し前のことになるが、ヒョンデの超高性能EV、アイオニック5Nに試乗した。SUVベースながら、強化したモーターを前後に備える4WDで、パフォーマンスが注目されるモデルだ。
EVは加速力は高いものの、モーターが強力であるほどモーターやバッテリーが発熱し、サーキット走行などしようものなら、2〜3周でセーフモードが発動してしまうケースが多い。しかしアイオニック5Nは、モーターやバッテリーのサーマルマネージメントも強化することで、EVの弱点である熱ダレを抑え込んでいるのが特徴だ。そのためEVレースで圧倒的な速さを見せつけているのである。
実際、その加速力は脅威ですらある。日本車では飛び切りの高性能で知られる日産GT-Rでも、最高出力、最大トルクはわずかに及ばない。しかもモーターなので、静止状態から最大トルクを発揮し、発進加速も追い越し加速も段違いの瞬発力を見せつける。
さらに、EVのスムーズさと静かさに物足りなさを覚えるオーナーのために、Nモードと呼ばれるトラックモードを用意している。Nモードではバーチャルな8速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)が選べ、シフトダウンするとエンジンをブリッピングしたように車内でエンジン音が高まり、バリバリとアフターファイヤーのような音(最近はバブリングとも言うらしい)まで放つのだ。
これはガソリン車のパドルシフトでスポーティーな走りを楽しんでいるユーザーにとってはなじみがあり、さらにより強力なパワーユニットによる刺激的な走りは痛快だろう。
ヒョンデ・アイオニック5Nと、それを試乗する筆者。サスペンションは硬めだが、ボディ剛性も高められているおかげで、それほど乗り心地は悪くない。そして2.2トンの車重を感じさせない俊敏な身のこなしと、強烈な加速による刺激的な走りが味わえる
だが公道での走りは、正直言って持て余すことが大半であり、雰囲気を味わう程度がせいぜいとなってしまう。それでも、この高性能なクルマを所有し乗り回すことに満足感を覚えるオーナーもいるはずだ。
GT-Rも同じだが、4人乗れて買い物にも行けることは、クルマを1台しか所有できないオーナーにとっては重要なことだ。そしてGT-Rにほれ込む、憧れる層を生み出し、ブランドイメージを作り出していったのだ。
ヒョンデは、このアイオニック5Nでスポーツカーを目指したのではなく、他にはない尖がったEVを作り上げ、話題性によってブランドイメージを高めることを狙ったのだ。その狙いは成功したと言っていい。しかし、スポーツドライビングを楽しむという観点からすれば、刺激的な走りも慣れれば普通の感覚になっていき、次に求めるクルマは違った方向性のものになるだろう。
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