スポーツカーに未来はあるのか “走りの刺激”を伝え続ける方法:高根英幸 「クルマのミライ」(5/5 ページ)
スポーツカーはクルマ好きの関心を集め続けているが、乗り回せる環境が限られるようになってきた。一方、マツダ・ロードスターなど価値のあるモデルも残っている。トヨタは運転を楽しむ層に向けた施策を展開している。今後のスポーツカーを巡る取り組みにも注目だ。
トヨタが「GRガレージ」を展開する、深い理由
GRガレージは、トヨタのレーシングブランドであるGAZOO Racingの名を冠した拠点で、GRブランドの車両を販売、メンテナンスするほか、オーナーの要望に応じたカスタマイズやサーキット走行のためのモディファイ(改造)まで行っている。
経営母体が異なるため、拠点により温度差はあるものの、積極的に走りを楽しむオーナーのためにさまざまなサポートを展開している。ミニバンやSUVにまでGR仕様(こちらはドレスアップのみ)を用意するのは、いささかコンセプトがブレている印象もあるが、GRが本当に走りを追求するユーザーのためのブランドというイメージは定着しつつあるようだ。
トヨタが展開するGRガレージ。スポーティーなクルマを好み、走りを楽しむユーザーのために、GRブランドの車両を販売するだけでなく、さまざまなサービスを提供する。写真はショッピングモール内で展開している例
クルマが便利さや経済性だけで選ばれるようになれば、最終的には価格の安さで中国や韓国の自動車メーカーに太刀打ちできなくなる可能性がある。だが安全性や信頼性といった品質と並んで、クルマの本質である走りの性能や感触でブランドイメージを構築できれば、そこに価値を生み出し差別化ができるのだ。
トヨタが豊田章男会長の趣味に巨額の資金を投じているという見方をする報道も見受けられるが、まったくもって勘違いも甚だしい。実用的なクルマばかりを作り続けていたら、クルマの楽しさをユーザーは忘れてしまう。
クルマを購入したいと思うユーザーには、運転を楽しむ層が一定数存在する。それに応え、そこに続くユーザーを育てるためにもスポーツカーは必要なのだ。
現時点ではトヨタ、日産、マツダ、スバルの4メーカーはスポーツカーを生産、販売している。これからスポーツカーはどう進化していくのか。自動車メーカー各社の取り組みが楽しみだ。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmedia ビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。著書に「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。近著は「きちんと知りたい! 電気自動車用パワーユニットの必須知識」(日刊工業新聞社刊)、「ロードバイクの素材と構造の進化」(グランプリ出版刊)。
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