トランプ政権下で「15兆円投資」を発表 ソフトバンク孫氏の思惑は?:古田拓也「今さら聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
ソフトバンクグループの孫正義氏が、米国へ1000億ドル(約15兆円)規模の投資計画を発表し、大きな注目を集めている。どのような背景や狙いがあるのだろうか。
バイデン政権下での「大失敗」
2021年にバイデン政権が発足すると、孫氏のアプローチには変化が見られた。バイデン政権は、トランプ政権のように大統領が経営者や投資家と共同で会見を開くなどの政治的な露出を控え、グリーンエネルギーやシェアリングエコノミーなどの個別テーマに焦点を当てるようになった。
しかし、バイデン政権下のSBGは厳しい展開の連続だった。孫氏が一時はほれ込んだものの、のちに「人生の汚点」と振り返る米WeWorkの経営破綻もこの時期に起こっている。また、世界的な利上げ局面において、ハイテク株の急落が発生。SBGのポートフォリオは大きな評価損を抱えることとなり、“虎の子”であった「Uber」や「アリババ」の株式を大量に売却して凌がざるを得ない状況まで追い込まれたのだ。
SBGが史上最大の最終赤字である3兆1627億円を記録したことも記憶に新しい。これも2023年に発生した出来事だが、孫氏はバイデン氏に擦り寄ることはなかった。
「筋を通す」一貫性の価値
もしバイデン政権下で短期的な利益のために「巨額投資会見」を行っていたならば、2024年大統領選挙においてトランプ氏が再び勢力を強めた今、SBGが米国市場で得られるはずの恩恵は大きく損なわれていたことだろう。
トランプ氏は、政治的な肩書よりも、個人的なネットワークを重視する政治スタイルで知られており、一度信頼関係を築いた相手を重用する傾向が強い。それは、トランプ氏が最近どのような人物を私邸に招いたかをたどれば一目瞭然であろう。
経営戦略の場においては、逆境に直面したときほど、短期的な問題解決に目を奪われがちだ。しかし、長期的なパートナーシップや信頼の構築は、その時点での最適解とトレードオフになることが多々ある。孫氏の事例は、短期的な利益追求よりも「筋を通す」姿勢が結果として持続的なビジネスの成功につながる可能性を示唆している。
トランプ氏といえば日本製鉄によるUSスチールの買収につき、断固反対の姿勢をとっている。米国企業が日本企業に買われるという構図が共通する事例として、トランプ政権下においてソフトバンクはSprintと経営統合することを承認されている。通信会社も今日においては、鉄鋼と同じかそれ以上に国家や国防において重要な位置付けであるはずではないか。もし、日本製鉄のCEOが孫氏であったらトランプ氏の姿勢は少し変わっていたのだろうか──。
孫正義氏の15兆円規模の投資発表は、SBGのグローバル戦略の一環だけでなく、「ビジネス」を円滑に進めるための政治的な思惑も含んでいる可能性が高いといえる。その恩恵を受ける立場にいられたのは、孫氏の「筋を通す姿勢」が評価された結果であると考えられる。これが業績にもポジティブに反映されるか、向こう4年の第2次トランプ政権に注目したい。
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