なぜ、最低賃金ニュースは“経営者の悲鳴”ばかり? 労働者の声が消えるオトナの事情:スピン経済の歩き方(2/6 ページ)
最低賃金が大幅に上がった徳島県で、零細企業経営者が「もう人を雇えない」と悲鳴を上げているという。なぜこうした場合、いつもマスコミは経営者側の声ばかりを取り上げるのか。その理由は……。
なぜ徳島県は最低賃金を大幅に引き上げたのか
そもそもなぜ、徳島県はここまで大幅な最低賃金引き上げに踏み切ったのか。理由の一つは、労働者側が文句を言わないことをいいことに、常軌を逸した低賃金で過酷な労働を強いる事業者がいるからだ。
「令和6年最低賃金に関する基礎調査結果」によると、徳島県が1624事業者を対象に調査したところ、これまでの最低賃金896円さえも払われていない労働者が1230人いた。
「低賃金労働者の一覧」には、耳を疑うような「搾取」が明らかになっている。例えば、10〜29人規模の製造業で働く60歳女性の収入を時給換算すると794円だった。9人以下の宿泊、飲食業で働く55歳の女性は、なんと時給596円だった。
これだけ物価上昇が騒がれ、値上げが続く今の日本社会でも、このような常軌を逸した低賃金労働を強いられている人々がまだたくさんいる。「弱者の味方」を標榜するマスコミが取り上げるべきは、このような人々の「こんな安い給料じゃ生けていけません」という悲鳴であることは言うまでもない。時給84円アップで廃業に追い込まれる経営者の悲鳴を取り上げることも必要だが、それと同じくらいの熱量でこちらも世に伝えるべきではないのか。
……という話をすると、「そういう大変な人もいるだろうが、ほんの一握りに過ぎないんだから騒ぎすぎだ」といったご指摘があるだろう。
そう、筆者が指摘したいこともまさしくそれなのだ。「ほんの一握りの人々が抱える問題を、全体のように語るのはいかがなものか」というのなら、「経営者が悲鳴!」的なニュースほど不自然なものはない。
「最低賃金引き上げで廃業に追い込まれる経営者」というのは、実は「最低賃金以下で働く労働者」と同じく、ほんの一握りに過ぎないからだ。
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