ルンバ“没落”──株価は20分の1に iRobotに残された唯一のチャンスは?:古田拓也「今さら聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)
ロボット掃除機「ルンバ」は、当時の家電市場に革命をもたらした。開発・販売を手がけるiRobotは2021年に株価は史上最高値を更新したが、なんと現在の株価は約20分の1。同社とロボット掃除機市場に何が起きたのか。苦境の中、起死回生の一手はあるのか。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら
米iRobotが2002年に発売したロボット掃除機「ルンバ」は、当時の家電市場に革命をもたらした。自動清掃デバイスは、特に広い家に住む欧米の顧客や、忙しい家庭を中心に絶大な人気を博した。
iRobotは当時から、未来のライフスタイルをリードする革新企業として認知されてきた。2020年にコロナショックで同社の株価が大きく下落した際も、出社回帰の動きと足並みをそろえる形で需要を急速回復させた。翌2021年に株価は史上最高値を更新し、1株当たり197.4ドル、時価総額は日本円にして5000億円程度まで伸びていた。
そんなiRobot、執筆している1月8日時点の株価は、10.76ドル。時価総額は約520億円にまで“ひっそり”と暴落している。同社とロボット掃除機市場に何が起きたのか。苦境の中、起死回生の一手はあるのか。
“ひっそり暴落”iRobotが、市場の停滞を打破するには?
2024年に大きく株価が下がったのは、iRobotをAmazonが買収するという観測が出ていたが、それが白紙になったためである。しかし、iRobotの株価が大きく下落したのは最近だけの話ではない。
実は2021年に最高値を更新した直後から、暴落の端緒は見えていた。背景には、中国を中心とした競合メーカーの台頭による市場シェアの喪失や、消費者需要のピークアウト、技術革新の行き詰まりがあると見られている。
ロボット掃除機市場の黎明期
ロボット掃除機市場は、iRobotの「ルンバ」によってその幕を開けた。2002年、初代ルンバが発売されると、その革新性は瞬く間に話題を呼び、家庭用ロボットの代名詞となった。
初期のルンバは、単純なランダム走行によって自動清掃を行っていた。特定の場所を効率的に掃除するというよりも、確率論により、広く、浅く、時には掃除されない場所もあるといった具合だった。しかし、同社はセンサー技術やアルゴリズムの改良を進め、2000年代後半には効率的なマッピングや障害物回避が可能となった。
この技術革新により、ルンバは市場での地位を確固たるものとし、2010年代までのiRobotはロボット掃除機市場の約60%のシェアを握っていた。2015年ごろまでは、競合他社の製品は「ルンバより安いが、性能もルンバより劣る」という評価が一般的であった。「コスパ」の面でiRobotを超えることが難しい環境であったのだ。
競争激化と中国企業の台頭
しかし、その構図は2010年代後半から徐々に変わり始める。この頃から中国のXiaomiやRoborock(Beijing Roborock Technology社)が、低価格ながら高性能な製品を次々と投入し、既存の市場リーダーに挑戦状をたたきつけた。
これらの企業は、製造コストを徹底的に抑える強みを持つとともに、ユーザーが求める性能や機能を捉えていた。例えばRoborockの製品は、ルンバの約半分の価格でありながら、同等以上の吸引力とマッピング精度を持つことで有名になった。
日本には狭小住宅や、縦に長い複数階で構成された家が比較的多い。そのため、近年では日本でロボット掃除機を見かけることは少なくなってきたが、こうした製品は2020年に入ってから勢力を増し、中国国内のみならず北米や欧州市場でも急速に普及していた。
Roborockは2021年7月から2022年6月までの12カ月間の最高級モデルの販売台数で、世界のロボット掃除機メーカーの中で首位にランクされるようになるなど、廉価モデルだけでなく、高価格帯のロボット掃除機市場においても、iRobotの市場シェアは奪われていたのである。
中国企業の強みは、eコマースプラットフォームを積極的に活用し、消費者との直接販売を展開したことだ。この戦略により、中間流通コストを削減すると同時に、迅速な顧客対応を実現した。一方のiRobotは従来型の卸売販売による流通チャネルの配分が大きく、家電製品の小売店の中で、横並びで比較され、価格競争に巻き込まれやすい状況だった。
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