「生成AI×RAG」の可能性 新潟日報「生成AI研究所」創設の狙いは?:地方紙発の課題解決(1/2 ページ)
新潟日報社はなぜ、地域課題解決に生成AIを活用しようとしているのか。新潟日報生成AI研究所社長と、エクサウィザーズ創業者、第1号ユーザーであるダイニチ工業取締役に狙いや期待を聞いた。
新潟県を代表する地方紙、新潟日報が生成AI活用を本格的に始めている。新潟日報を発行する新潟日報社は2024年11月1日、100%子会社として「新潟日報生成AI研究所」を設立。地域に特化した生成AIサービスの提供を開始した。
新潟日報の2010年以降の記事データ約47万本を生成AIに読み込ませたもので、地方の課題解決に必要な情報提供を目的としている。その想定活用範囲は、広報原稿作成や業界トレンド把握、アイデア出しから議事録作成など多岐にわたる。
生成AI領域においては、法人向け生成AIサービス大手のエクサウィザーズ(東京都港区)と協業し、同社の技術を組み合わせている。記事データを「学習」するのではなく、RAG(検索拡張生成)によって読み込む形をとっており、プライバシーやセキュリティに配慮している。
新潟日報社はなぜ、地域課題解決に生成AIを活用しようとしているのか。新潟日報執行役員で、新潟日報生成AI研究所社長の鶴間尚さんと、エクサウィザーズ創業者で同研究所所長の石山洸さん、第1号ユーザーであるダイニチ工業(新潟市)取締役の野口武嗣さんに狙いや期待を聞いた。
地方紙が生成AIに注力する理由とは?
「新潟日報社に限らず、地方新聞や新聞社は非常に厳しい状況に置かれています。発行部数も厳しく、広告収入なども厳しい状況にあります。こうした中、新しい事業を作るべくスタートしたのが新潟日報生成AI研究所になります」
新潟日報生成AI研究所の鶴間社長が切り出した。新潟日報の朝刊発行部数は2008年頃まで49万部を超えていたものの 、現在は33万8000部。2024年2月末には夕刊も休刊し、本業である新聞事業は確実に縮小傾向にある。
「こうした中で、各地方紙は存続をかけ、いろいろな新事業を展開しています。当社も新聞社らしい新事業とは何かを考えていたところ、2024年5月にエクサウィザーズの石山さんと話す機会があり、地方課題を生成AIで解決する提案をいただきました」(鶴間社長)
最初は新潟県が抱える特有の課題。例えば一部地域で世界トップクラスの積雪量を抱える問題や、農業の問題、高齢化や過疎の問題などの解決に、生成AIを活用する考えだったという。
「最初から記事データベースを生成AIで活用する構想があったわけではなく、一緒に新潟の皆さんと地方課題を解決するために、新潟日報社は何ができるのかというところから話がスタートしています」(鶴間社長)
2024年5月に提案を受けたことを機に、9月から本格的な事業に着手。11月に研究所設立へと至った。第1号ユーザーとして、新潟市に本社を置く、家庭用石油ファンヒーターや加湿器などを全国に製造販売するメーカー・ダイニチ工業が導入を決定している。
「地方の課題は新潟に限らず、全国にも通じるところがあります。今回の新潟発生成AIをきっかけに、生成AIの可能性を新潟から世界へ発信していきます。『生成AIで新潟の可能性を∞(無限大)に』をテーマに、事業に取り組んでいきます」(鶴間社長)
「新潟日報生成AI」で何ができるのか
新潟日報生成AI研究所が展開するサービス第1弾が「新潟日報生成AI」だ。これは新潟日報の記事データを活用した法人向けの生成AIサービスだ。2010年1月以降の記事データ約47万本を生成AIが参照することによって、広報原稿作成や業界トレンド把握、アイデア出しから議事録作成などに役立てる狙いだ。
新聞記事は新聞社が労力とコストをかけて作成した知的財産であり、著作権などの法的権利がある。また、一般市民による多くの実名コメントも含まれており、生成AIに学習されて再利用されることに対する懸念もある。こうした背景から、生成AIに記事データを記憶し、学習させる形にはしていない。検索するたびに、記事データを一時的に参照するRAGという仕組みを使っているのが特徴だ。参照する記事データは、新潟日報が執筆するなどして著作権を保有しているもので、共同通信などが配信したものをそのまま掲載することはしていない。
新潟日報生成AIでは、地域の特性に特化した回答を得られる。例えば、新潟県下越地域で、地元の食材を利用したレストランの起業を利用者が質問した場合、新潟市中心部で人が集まる地域はどこか。また地元の食材を生かしたレストランでは、近年どんなジャンルの店が人気あるか。先行事例ではどんなメニューが展開されているかなどを、生成AIが記事データベースを引用した上で、精度の高い回答を提供する。
他にも、新潟市の食と酒のイベントを実施したいと考えている利用者がいた場合には、AIが朱鷺メッセやANAクラウンプラザ新潟といった、地元特有のイベント会場を提案し、それぞれ過去の同種イベントの開催実績なども回答する。
「新潟県内の地元民間企業や、県内の自治体など、汎用にどんな形でも使えるように設計しました。使えば使うほど、生産性が上がっていくのではないかと思います。地域から、企業や自治体の生産性を上げていくことは、日本全体にとっても有益だと考えます」(石山洸所長)
第1号ユーザー・ダイニチ工業の期待
第1号ユーザーであるダイニチ工業は、なぜ新潟日報生成AIの導入をいち早く決めたのか。同社の野口武嗣取締役は「当社の2024年のテーマとして、生成AIを企業としてどのような使い方ができるかの検討課題があった」と話す。
「私はもともと広報を担当していたこともあったのですが、新潟日報生成AIを試しに使ってみた際、アウトプットに対して新聞の記事が出典として同時に見られることに便利だと感じたのが最初の直感です」(野口取締役)
同社が生成AIを導入しようとしたきっかけの一つが、暖房器具を中心に取り扱う事業モデル特有の問題があったという。
「当社は暖房商品を中心に成長してきた会社なのですが、10月から12月までの第3クオーターで売上高と利益の大半を稼ぐ収益構造となっています。そしてどの時期にどの地域でどれだけ売れるかというのは、気象条件によって左右される面があります。この予測を人間がやるには限りがありますので、AIでより精度高く予測できないか、という期待があります」(野口取締役)
新潟日報生成AIを活用することによって、少なくとも県内の需要予測や販路拡大に役立てたい狙いがある。
「直近の活用方法としては、新聞の経済面の企業側の目線と、生活面の消費者側の目線の両面をうまくAIに分析させて、昨今のトレンド分析や、新商品を展開する理由付け、商品企画やプレスリリースなどの肉付けに利用していきたいですね。こうした分析をするためにこれまで図書館で縮刷版を見て分析をしていたので、大きな生産性向上につながると確信しています」(野口取締役)
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