UUUM上場廃止は“敗退”か“英断”か 時価総額は10分の1、生き残る道は?:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)
YouTuberのマネジメントを手がけるUUUMが、2月17日付で正式に上場廃止する見通しとなった。時価総額が「全盛期の10分の1」にまで低下したのはなぜか。上場廃止をどう見るべきか。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら
HIKAKINなどの著名YouTuberのマネジメントを手がけるUUUMが、2月17日付で正式に上場廃止する見通しとなった。
2023年末に行われたフリークアウトホールディングスの株式公開買付(TOB)の発表を受け、UUUMは同社の非上場子会社として今後の事業を継続することとなる。
時価総額が「全盛期の10分の1」にまで低下したワケ
YouTuber事務所として名をはせたUUUMは、HIKAKINやはじめしゃちょーなど日本を代表するクリエイターを多数抱え、2017年に当時のマザーズ市場へ上場した。全盛期の2019年には時価総額が1000億円を突破し、「ネット版の芸能事務所」という新たなビジネスモデルのパイオニアとして市場関係者に認識されてきた。
しかし2020年以降は、YouTubeの広告収益を巡る環境の変化、さらにはショート動画を得意とするSNSプラットフォームの隆盛がクリエイターの収益に打撃を与えた。
また時期を同じくして、所属クリエイターが相次いでUUUMを“卒業”するという「大量退所」問題も注目を浴びた。背景には、相場20%とされる同社の「マネジメント手数料」があると指摘されていた。
これらの要素が複合的に影響したことで、UUUMの成長ストーリーが伸び悩み、今では時価総額100億円程度で推移している。
UUUMの上場廃止は“真っ当”な戦略
そんなUUUMの上場廃止だが、筆者は“真っ当”な戦略であると評価したい。
その理由として、そもそもいわゆる「芸能事務所」のビジネスモデル自体が、上場企業の態様とマッチしていない。現に、芸能事務所の大多数は非上場である。上場企業として芸能事務所を収益の柱として展開しているのは国内に2社しかない。
1つは、globe、安室奈美恵、浜崎あゆみといった日本を代表するアーティストをマネジメントしてきたエイベックスである。そしてもう1社がサザンオールスターズや福山雅治が在籍するアミューズだ。
2社の時価総額はそれぞれ653億円、273億円といずれも3桁台にとどまる。所属するアーティストがいかに国民的知名度を有していても、企業価値とのギャップが生じている面は否めない。その理由は、エンターテインメント業界特有の不確定要素にある。
タレント人気は水物であり、ひとたびスキャンダルや契約不和が生じれば、一夜にして何億円もの契約が吹き飛んだり、会社組織そのものが崩壊したりするリスクがある。ここ数年の大手芸能事務所やタレントの炎上事例を振り返れば、納得できるだろう。
このようなビジネスは、上場企業に投資する「ミドルリスク・ミドルリターン」を追求する投資家サイドの好みとはかけ離れている。芸能事務所への投資は「ハイリスク・ハイリターン」であり、投資家や経営陣の間でいかにコーポレートガバナンスの意識が高くても、コントロールしきれない。
例えるならば「どこに埋まっているか分からず、いつ爆発するか分からない時限爆弾」つきのビジネスだ。マネーを大量に投下しようという者は少ないはずだ。
また、芸能事務所が上場すると、株主への情報開示やガバナンス上の責務が大きくなることで、タレントのマネジメントやコンテンツ展開において思い切った決断を取りづらくなるという懸念も存在する。これはUUUMのようなインフルエンサー事務所でも同様で、クリエイターの発信内容や契約方針がより厳しく監視されることで、結果的にその表現や活動が制約されやすくなる可能性も指摘される。
実際に、著名芸能事務所のホリプロは2011年の時点で経営陣による買収(MBO)により上場廃止するという選択肢を取った。同社は当時のプレスリリース(参考:PDF)で、「市場を通じた資金調達の必要性が当社にはなく、すでに幅広い知名度、ブランド、信用力等を有している当社にとって、上場を維持するメリットは必ずしも大きくない状況にある」と説明している。
上場の本旨はあくまで株式市場を通じた資金調達を実行することであり、上場それ自体が目的化することは本末転倒なのだ。
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