「働きやすさ」が「ゆるさ」に転じてしまうのはなぜ? 働き方改革の目的を探る:働き方の見取り図(1/3 ページ)
今回は、2025年の「働き方トレンド」を概観し、働き方改革の本来の目的について、考察してみたい。
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「夫婦による家事、育児の分担が一般化」
「育児休業、看護休暇、勤務時間の短縮などの制度が利用しやすくなる」
「多様な働き方の選択が可能に」
厚生労働省のワーキングチームが2002年に公表した『2025年の日本の姿』の中には、20年以上も前にまとめられたとは感じられないほど、現在でも通用しそうな文言が並んでいます。
家事や育児の負担はいまだ女性に偏っていたり、長時間労働があちこちの職場で残っている現状は、2025年を迎えても課題視されたままです。
とはいえ「2002年当時と比べれば」という枕詞をつけると、状況はかなり改善してきていると感じます。働き方改革関連法によって長時間労働の是正の効果が少しずつ表れ、コロナ禍によるケガの功名という面は否めないものの、一部でテレワークも定着しました。副業に取り組む人も増え、多様な働き方も過去と比べれば選びやすくなっています。
ここで改めて考えてみたいのは、私たちが「働きやすさ」を追求する目的は何か、ということです。目的を見失い、ただゆるい職場が生み出されてしまえば、働き手自身の首をしめることにつながりかねません。
今回は、2025年の「働き方トレンド」を概観し、働き方改革の本来の目的について、考察してみたいと思います。
著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)
ワークスタイル研究家/しゅふJOB総研 研究顧問/4児の父・兼業主夫
愛知大学文学部卒業。雇用労働分野に20年以上携わり、人材サービス企業、業界専門誌『月刊人材ビジネス』他で事業責任者・経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。
所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声をレポート。
NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
働き手に吹く追い風
いま、就業環境をめぐる動きは働き手に追い風が吹いています。根底にあるのは、人口減少を主要因とする慢性的採用難です。少子化傾向が年々強まっているだけに、この傾向は少なくとも今後数十年に渡って変わることはありません。
さらに、2025年は社会を構成する大きなボリュームゾーンである団塊世代が75歳以上となり、労働市場から離れていくことの影響も指摘されています。いわゆる2025年問題です。多くの職場ではシニア層の活躍促進に取り組んでいるものの、60歳以上になると就業率は顕著に下降線をたどっていきます。
労働力調査によると令和5(2023)年の就業率は50代まで80%を超えているのに対し、60〜64歳は74.0%です。さらに65〜69歳は52.0%、70〜74歳は34.0%と下降していき、75歳以上になると極端に下がって11.4%。600万人近くいるとされる団塊世代が75歳以上になる2025年以降の人手不足感は、より強まることになりそうです。
一方、働き手の価値観は多様化してきています。職場は一律の価値観に基づくステレオタイプを押しつけるのではなく、個々の志向性の違いに応じた働き方を尊重するようになってきました。「男性は仕事、女性は家庭」といった性別役割分業にも疑問の眼が向けられるようになり、仕事と家庭の両立は女性だけの課題とは見なされない方向へと進んでいます。
中にはこれらの環境変化に鈍感だったり、黒字でも早期退職を募集する職場も見られたりするものの、「辞めたければ辞めろ! お前の替わりはいくらでもいる」「24時間戦え!」などど、総じて職場側が強気に出られる状況ではなくなり、働き手の立場は相対的に押し上げられてきました。
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