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ココイチはなぜ、つけ麺・ジンギスカン・もつ鍋に挑むのか?:マーケティング戦略の観点から分析(4/7 ページ)
カレーで有名な「ココイチ」を展開する壱番屋。シナジー効果が見込みづらい新業態に進出する意図は何なのか?
事業同士のシナジーを重視しない理由は?
外食産業の多角化といえば、吉野家がカルビ丼やスンドゥブ業態に進出するといったケースが典型的な例である。大量の牛肉の仕入れや、中央キッチンによる食材加工の共通化など、規模の経済を働かせ、シナジーを追求してコスト競争力を高めるのが一般的なアプローチといえる。しかし、壱番屋が進める新業態であるつけ麺やジンギスカン、もつ鍋は、いずれもカレーとの原材料や調理法、客層が異なるため大きなシナジーが見込みにくい。
この事実から見えてくるのは、壱番屋が必ずしも「スケールメリットの拡大」を主目的として新業態に進出しているわけではないという可能性である。カレーと似た食材や調理工程を共有しない業態に飛び込むのは、一見リスキーにも映る。しかし、実は複数の「問題児」業態を同時多発的に試すことで、成功パターンが見つかった時にそこに集中的にリソースを投下できる。いわゆる投資リスクの分散効果が得られるというメリットがある。
また、壱番屋はハウス食品グループという大きな後ろ盾を得ており、資本的な体力があると推察される。カレー事業で稼いだキャッシュフローを土台に、複数の業態を試すだけの余力があるからこそ、シナジーが限定的でも勝負に出られるのである。
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